AMD Ryzen 3 PRO 4350G搭載PCでUbuntu 20.04 LTSを動作させ、コストに見合ったパフォーマンスが出るかを計測します。
構成のポイント
まずは今回の構成を見ていきましょう。
CPU
AMD
Ryzen 3 PRO 4350G
CPUファン
SCYTHE
SCSK-2000
マザーボード
ASRock
A520M-ITX/ac
メモリー
Crucial(CFD)
W4U3200CM-16G
SSD
WD
WDS250G2B0C
電源
玄人志向
KRPW-TX300W/90+
ケース
In Win
IW-BP671/300B
この構成には、アイドル(低負荷)時の消費電力を可能な限り低いものにしたい、という意図があります。電源は入れっぱなしにするものの、負荷はあまりかからないので絶対的な性能は必要ありません。であればIntelのCPU(というかSoC)にもっと適したものがありますが、今となっては構成が古いので見送りました[1] 。
IntelのCore i3シリーズも考えたのですが、Ryzen 3 PRO 4350Gだとアイドル時の消費電力は同等かなと思ったものの、どうもそうでもないようで、構成をミスしたかもしれません[2] 。
マザーボードA520M-ITX/ac のUEFI BIOSは、バージョンP1.40でした。このバージョンは執筆時点でアップデートとしてリリースされておらず、どのような変更点があるのかわかりません。
今回の用途では電源ユニットもよりよいものに交換したほうがいいだろうということでKRPW-TX300W/90+ にしたあたりは目新しいところでしょうか。
なおケースIW-BP671/300B は流通在庫のみのようですので、Mini ITXで5インチベイとPCI Expressスロットを使用したい場合は見かけ次第購入しておいたほうがいいでしょう。
比較する構成は次のとおりです。
CPU
AMD
Ryzen 5 3400G
CPUファン
SCYTHE
SCSK-2000
マザーボード
GIGABYTE
B450 I AORUS PRO WIFI
メモリー
Team
TF3D416G3200HC16CDC01
SSD
WD
WDS250G2B0C
ケース
In Win
B1
第635回 の構成をパワーアップしたものになっています。CPUは比較的入手が容易で、前世代に当たる同じ4コア8スレッドのRyzen 5 3400Gです。メモリーはオーバークロックを行っているため、ベンチマークは全体的にRyzen 5 3400Gに有利になるはずですが、それはおいおい確認していきましょう。
Ryzen PRO 4000GシリーズとUbuntu 20.04 LTS
本連載第631回 と第632回 でRyzen 7 PRO 4750Gを紹介しました。Rynzen 3 PRO 4350Gとは同じシリーズで同じように動作するのですが、Ubuntuの対応状況が若干変わっています。
第632回ではUbuntu 20.04 LTSのカーネル(5.4)ではRyzen PRO 4000Gシリーズは正しく認識しないため、Radeon Software for Linux (AMDGPU-PRO)を使用するといいと説明しています。しかし今回の執筆時点においてカーネルを最新版にアップデートすると、このドライバーを最新にしてもカーネルモジュールのビルドができずに使用できません。ただし、具体的な時期は調査していないのですが、カーネル5.4でもいつの間にかこのドライバーをインストールしなくても画面を出すことはできるようになりました。さらに現在はHWEカーネル(5.8)がリリースされており、この問題は完全に解決しています。よってUbuntu 20.04 LTSを使用する場合は必ず最新の状態にアップデートを行ってください[3] 。
図1 は「このシステムについて」です。「 グラフィック」が「AMD Renor」になっているとおり、正しく認識できています。ちなみに正しく認識できていないときは「llvmpipe」になっていました。
図1 Ryzen 3 PRO 4350Gの「このシステムについて」
ベンチマーク
それではベンチマークの結果を見ていきましょう。今回も使用したのはPhoronix Test Suite 10.0.1です。使用したカーネルのバージョンは原則として5.4ではありますが、5.8で再実行してもグラフィック関連を除けばほぼ同じだったのでそのまま掲載します。
まずはLinuxカーネルのビルド時間です(図2 ) 。
図2 Linuxカーネルのビルド時間
あまり違いがありません。
続いてXZの圧縮時間です(図3 ) 。
図3 XZの圧縮時間
やはり、あまり違いがありません。
この2つはマルチスレッドの結果ですが、シングルスレッドの性能も見てみましょう(図4 ) 。
図4 CoremarkのIPS
Ryzen 5 3400GはZen+アーキテクチャ、Ryzen 3 PRO 4350GはZen2アーキテクチャであり、それなりの差が出るはずですが、期待ほどは差がありません。
グラフィックの性能はどうでしょうか。図5 を見てみましょう。
図5 SuperTuxKartのFPS
これだけカーネル5.4と5.8の結果を並べていますが、全然違うことがわかります。これだけでもカーネルのバージョンは5.8以降にすべきであることがわかります。
実アプリケーションとして、GIMPを見てみましょう(図6 ) 。複数のテストを実行しましたが、ほぼ同じ傾向でした。
図6 GIMPのリサイズ
あまり違いが見られません。
今や広く使われるようになったBlenderでもベンチマークを計測してみました。こちらは図7 がOpenCL、図8 がCPUのみでの結果です。不思議なことにカーネル5.4と5.8との差はほぼありませんでした。
図7 BlenderのClassroomのレンダリングにかかった時間(OpenCL)
図8 BlenderのClassroomのレンダリングにかかった時間(CPU)
体感できそうな差が出ていますが、CPUかOpenCLかはあまり違いがありません。これはもっと速いOpenCLドライバー(具体的には前出のRadeon Software for Linux)を使用するとまた話は変わってくるかもしれません。
7-Zipの圧縮のベンチマークは図9 です。単位はMIPSです。
図9 7-Zipの圧縮時間
やはりそれなりの差が見られます。
動画フォーマットのH.264形式へのエンコードは重い処理だといわれてますが、図10 で結果を見てみましょう。
図10 H.264のエンコーディング
これもそれなりに差があります。
アイドル時の消費電力
ワットチェッカーで測ったところ、今回の構成ではアイドル時の消費電力は15ワット前後でした。参考値として第623回 での計測では、Ryzen 7 PRO 4750Gが18ワット前後、Ryzen 5 3400Gは23ワット前後でした。今回はRyzen 3 PRO 4350Gそのものと電源ユニットの相乗効果で15ワット前後と考えられます。充分低いですが、さらに低くできるか今後の課題にしたいと考えています。
まとめ
小型でそれなりに消費電力が低いPCを構築するという目的は達することができましたが、性能的にはRyzen 5 3400Gと大差はないものの、アプリケーションではそれなりの差が見られ、用途によっては悪い選択ではなさそうです。
Ubuntu 20.04.2 LTSのリリース後、あるいはUbuntu 20.10をインストールするPCとしては悪くないので、ケースをChopin あたりに変更して組んでみるのはいかがでしょうか。
とはいえ、率直なところAMDにこだわりがなければ第10世代Core i3シリーズのほうがコストパフォーマンスはいいように思います。