遠くへ行きたければ、みんなで行け ~「ビジネス」「ブランド」「チーム」を変革するコミュニティの原則

『遠くへ行きたければ、みんなで行け』解説全文公開:Code for Japanはどのようにコミュニティを運営しているのか

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本記事は,4/21発売の『遠くへ行きたければ,みんなで行け ~「ビジネス」「ブランド」「チーム」を変革するコミュニティの原則』の日本語版解説を,執筆者の一般社団法人コード・フォー・ジャパンの代表理事,関治之さんより許諾を得て公開するものです。日本を代表するコミュニティであるCode for Japanを例として,「上記書籍で語られるコミュニティの運営原則を,日本のコミュニティに当てはめるとどうなるのか」をテーマに執筆いただきました。

Code for Japanは「ともに考え,ともにつくる社会」の実現を目指し活動している,シビックテックコミュニティです。シビックテックとは,シビック(市民)とテクノロジーを組み合わせた造語で,市民がよりよい社会づくりを主体的におこなうためのさまざまなテクノロジー活用のことを指しています。市民が,地域の課題解決を行政に任せきりにせず,立場を超えてともに考え,ともに解決策を考え,ともに実践的につくっていくような場作りをおこなっています。私がCode for Japanを2013年に立ち上げてから8年経過した2022年1月現在,Code for JapanのSlackチャンネルには6,000人以上のメンバーが参加しています。

オープンソースコミュニティとオープンガバメント

Code for Japanでは,多様な人々が組織の垣根を越えてオープンにつながり,社会をアップデートするコミュニティづくりを目指しています。ボトムアップ型のネットワークが特徴で,日本国内の地域版Code for コミュニティ(Code for Sapporo,Code for Okinawa,Code for Kanazawaなど)や海外のg0v(台湾)やCode for Koreaなどとも連携したり共創したりしながら,さまざまな課題に取り組んでいます。1 人のリーダーが引っ張るのではなく,共通の目的を持った人たちが集まり,さまざまなレベルで共同作業をおこないながら少しづつ前進していく。まさに本書に書かれているような,自律的なグループとして機能しています。
市民側でこのような動きが進む一方で,政府や自治体でも,行政に対し市民がさまざまな形で参画できるようにする,⁠オープンガバメント」という考え方が広がりつつあります。
シビックテックコミュニティの流れは欧米から始まっています。オバマ大統領は2009年1月の就任直後に「透明性とオープンガバメント(Transparency & Open Government⁠⁠」と題する覚書を各省庁の長に対して発出しました。その書簡の中で「透明性⁠⁠,⁠国民参加⁠⁠,⁠協業」の3原則に基づき,開かれた政府を築くことを表明しています。それに足並みを合わせるかのように,同年にCode for Americaが立ち上がり,オープンデータの活用や,行政組織にIT人材を派遣するフェローシップなどの活動が活発化していきました。
行政が市民と共創するにあたり,オープンソース的なボトムアップカルチャーが重要になるのは当たり前の流れでした。トップダウンで仕様を決め,それに対して企業がシステムを作るような関係ではなく,多様な市民が参加し,行政とともに課題を解決していく関係が生まれたのです。オープンソースコミュニティと違う点は,技術者だけでなく,非技術者や課題当事者など,参加者層がより多様であったことでした。
日本では,2011年に発生した東日本大震災を契機に,オープンデータやシビックテックの考え方が広がっていき,2013年からCode for Japanが正式に活動を開始しています。 筆者が,2013年にCode for Americaのメンバーだったキャサリン・ブレイシーに会いに行き「Code for Japanを立ち上げようと思うがどうしたらいいか」と相談をしたところ,⁠Why not? 許可なんていらないから,ぜひ日本で始めてみてよ。今ちょうどCode for Allというインターナショナルコミュニティも準備中なので,始まったら連絡するね。日本での動きを楽しみにしているわよ」と,まさに草の根のコミュニティらしいおおらかさを感じたことを覚えています。
以下,Code for Japanの活動を例に取りながら,本書で示されている内容を補足していきたいと思います。

コラボレーター・コミュニティとしてのCode for Japan

本書ではコミュニティのエンゲージメントモデルとしてコンシューマー,チャンピオン,コラボレーターの3つが示されていますが,Code for Japanはコラボレーター・コミュニティに分類されるでしょう。特定のサービスを提供しているわけではありませんし,シビックテックに関するコンテンツ自体を参加者自らが作り上げていくタイプのコミュニティだからです。

「ここでは,熱狂的な参加者は,単に個別に独自の機能を追加するだけではなく,共有されたプロジェクトのためのチームとして能動的に協働作業する。これは文字通り,世界そのものを変えるようなチャンスにつながることもある(第2章⁠⁠。」

と本書で書かれている通り,熱心な参加者達は,だれかから指示されたわけでもないのに,日本中で主体的にさまざまな価値を生み出しています。たとえば,以下のような側面を上げるとわかりやすいのではないでしょうか。

各地のCode forコミュニティ,ブリゲイド

各地に存在するCode forコミュニティは,それぞれが独立したコミュニティです。シビックテックを推進するという同じゴールに向かい,それぞれが自由に活動をおこなうネットワークとして機能しています。
Code for Japanでは,各地のコミュニティが活動しやすいように,パートナーシップを組んでいるCode for コミュニティ(ブリゲイド)に対して,サーバ環境や交流イベントの運営や参加のための交通費など補助を行ったり,Code for Japan Summitなど,発表や学び合いの機会としてイベントを主催したり,各地の活動をレポートとして報告したりしていますが,各地域のコミュニティとはフラットな関係で,指示系統はありません。

だれでもプロジェクトが立ち上げられる,ソーシャルハックデー

Code for Japanは,ソーシャルハックデーと呼ばれる1Dayハッカソンを毎月おこなっています。シビックテックに関係することであればだれもがテーマを持ち込むことができ,その場で仲間を集め,そのまま夕方までもくもくと共同作業をおこないます。
アイデアだけの段階から仲間を集めて少しづつ進んでいくプロジェクトもあれば,すでにローンチ済みのサービスのテストや改善を求める求めるプロジェクトや,NPOや企業のお悩み相談など持ち込まれるテーマもさまざまです。
もちろん,Code for Japan自体がおこなっているプロジェクトについて参加できる場でもありますが,人々の共感さえ集められれば,だれでもコンテンツを作る側に回れます。

インターンが発案した,Civictech Challenge Cup U-22

新型コロナウイルスの猛威によって学校が臨時休校となった時期,多くの学生がインターンシップの機会を奪われました。また,OB訪問なども難しく就職活動にも多くの制約がでてしまいました。そこで,Code for Japanにインターンとして参加していた学生が発案したのがCivictech Challenge Cup U-22という,22歳以下を対象としたシビックテックのプロトタイピングコンテストです。学生同士でチームを組み,社会課題解決のためのプロダクトを考え,夏休みの期間を使ってプロトタイプを開発し,協賛企業や審査員の前でデモをおこないさまざまな賞を獲得するものです。ここでいい成績を残せれば,就職活動のためのアピールにもなりますし,継続開発を希望するチームは,その場で出会った人たちや地域の人たちと実証実験など実装フェーズまでチャレンジしていくこともできます。

このコンテストの発案から実施まで,すべてインターンの学生チームが中心になってすすめています。

Code for Japanコミュニティにおけるインナーとアウター

▼図1_1 コラボレーター・コミュニティにおけるインナーとアウターの図

図1_1

図1_1に,インナーとアウターという概念が出てきます。
Code for Japanも,おもに一般社団法人コード・フォー・ジャパンとして企業活動をおこなうインナーコミュニティと,フラットでオープンに活動をおこなっているさまざまなアウターコミュニティが混ざり合っています。その境目はあいまいではありますが,たとえば以下のように分類されそうです。

▼図1_2 Code for Japanの場合

図1_2

全体のMission/Vision/ValueやCode of Conduct(行動規範⁠⁠,プロジェクトごとのビジョンなどのアウター向けのガバナンスに比べ,インナー向けのルールには就業規則,セキュリティ基準,チームごとのビジョンなどが定められています。

6つの原則を当てはめて活動を振り返る

さて,本書ではコミュニティについての6つの原則が語られています。それぞれを,私の過去の経験に当てはめ理解してみたいと思います。

1. 価値のある資産を築く,シンプルなところから始めよう

ごちゃごちゃと議論をすることに時間を費やすのではなく,Minimum Viable Product(MVP)から始める。私もこれは常に意識していることです。特に,Code for Japanのようなコミュニティ活動では,ボランタリーな関わりも多く,人々が活動に費やせる時間は多くありません。さっさとアウトプットを出して活動の勢いをつけていかないと,必ず活動が停滞します。私がCode for Japanのキックオフを行ったときには60 名ほどが集まりましたが,そのメンバーでワークショップをおこない,なにを目的に集まったかをみなさんに伺い,2時間であるべき姿を仮ぎめし,興味ごとにチームを分けてすぐに動き出しました。
当初の活動内容もシンプルで,まずは各地で自由に独自のCode forコミュニティを始められるようにすること,活動したい人向けにワークショップをおこなうこと,イベントをおこない米国の事例などを紹介することくらいで,必要なものはWebサイトとSNSくらいでした。
その後,自主事業として,自治体向けのデータ活用ワークショップや,企業の従業員が研修のために自治体と共創する地域フィールドラボといったプロジェクトが生まれていきましたが,まずは最低限できることのみでスタートし,いっしょに活動することを通じてさまざまなステークホルダーをコミュニティ側に巻き込んでいきました。

2. 明確で客観的なリーダーシップを持とう

結果的に言い出しっぺの私が代表理事になりましたが,技術者だった私には行政の経験もまちづくりの経験もありませんでした。最初は,とにかく活動をしていて集まってくるいろんな人の話を聞くことを重視しました。その中で,大きなビジョンを持っている人に協力し,彼らのやりたいことをテクノロジーで実現するための方法をいっしょに考えました。そして,いっしょに活動することで徐々に信頼関係を作り上げていきました。当時は行政やパートナー企業側でいっしょに事業を作っていたメンバーが,今ではインナーコミュニティのリーダーとして活躍していたりもしています。
Code for Japanのリーダーに求められることは,能力の高さよりも,透明性と傾聴力です。いくら優秀でも,多様な人の意見を尊重し,ともに考えることができない人がコミュニティ活動のリーダーシップを発揮するのは難しいと感じます。

3. 文化と期待をハッキリとさせよう

Code for Japanのビジョンは「ともに考え,ともにつくる社会」です。このビジョンは設立当初のワークショップから生まれたタグラインでした。活動する中でこの言葉が最も活動をうまく表すことができることがわかり,正式にビジョンとして固まっていきました。
不特定多数の人間が参加する場ですので,みなさんに安心して参加してもらえることはとても大切です。
今では技術系のイベントでもよく見られるようになったCode of Conduct(行動規範)も早い段階で設定していますし,イベントの際にも毎回読み上げています。
行動規範には,互いに敬意を払うこと,意見を聞き価値を認め合うことやハラスメントの防止などについて書かれています。

もう一つ具体的な例として,Code for Japanが東京都の委託を受けて開発した,東京都新型コロナウイルス対策サイトをご紹介します。このサイトは,GitHubでオープンにコントリビューターをつのったために大きな話題となり,300名以上が開発に加わってくれました。
このサイトの開発が決まり,初日にまず定めたのが,以下の,⁠行動原則:CODE_OF_CONDUCT.md」という文章でした。


# 我々はなぜここにいるのか
* 都民の生命と健康を守るため
* 正しいデータをオープンに国内/海外の人に伝える
* 正しいものを正しく,ともに作るプロセスの効果を具体的に示す
# サイト構築にあたっての行動原則
* User perspective
情報は人に届けてこそ意味がある。UX(ユーザエクスペリエンス)を大切にする。
アクセス解析や検索語の分析,SNS分析などの数値分析を行い,数字で対応を判断する
* No one left behind
国籍や年齢,障害の有無にかかわらず,誰もが快適に利用できるサイトを目指す
ユニバーサルデザインに関するガイドラインに準拠する
* International
海外の人にも直感的にわかるような表現をする。
多言語で展開する
* Be open
オープンソース:ソースコードやサイト構築に関するノウハウは可能な限り公開し,他の自治体でも利用できるようにする
オープンデータ:わかりやすいデータ形式で,誰でも使えるような形でデータを公開する。
* Build with people
都庁の人だけではなく,様々な人々とともに作る
市民エンジニアの貢献を歓迎する
情報を求める人達とともに,サイトを育てていく

このように,どのような行動を期待するのかを定めておいたことは,顔の見えない多数のメンバーとやり取りをするにあたり,大きな助けとなりました。
何のために活動しているのか,参加する人々になにを期待しているのかをはっきりさせることは,運営側にとっても参加者側にとっても重要だと感じます。

4. 人間関係と信頼,関係づくりに集中しよう

Code for Japanの活動がここまで広がった最も大きな理由が,信頼と関係性づくりだと思います。実は,活動開始当初,テクノロジーを活用することに偏っていたプロジェクトがいくつかあり,それらはあまり長続きしませんでした。たとえば,市税を可視化するための,WhereDoes My Money GO? というプロジェクトがありました。海外のオープンソースツールをローカライズして,日本の自治体のデータを使って税金の使いみちをわかりやすく表現するものです。オープンソースで公開したところ,多くの人たちの手で複製され,100 以上の自治体のバージョンが生まれました。当時新聞に取り上げられるほど話題にはなりましたが,残念ながらそこで止まってしまうのが大半でした。今思えば,このサイトをみた後に市民にどのようなアクションを期待するのか,そしてこのサイトを使って自治体とどのような関係性を作っていきたいのか,職員に対しなにを期待し,どのように働きかけていくのかといった,その後の戦略がなかったことが大きいと思います。
また,オープンデータを推進する活動でも,一方的にオープンデータの良さを自治体の方々にアピールし公開を求めるだけでは,あまり活動は広がりませんでした。しかし,一方的にオープンデータ推進を叫ぶのではなく,自治体の現場の人たちと地道なデータ活用をおこなうワークショップをおこない始めたところ,徐々にデータ公開の数も増え,自治体の方たちとの活動が広がっていきました。
⁠ともに考え,ともにつくる」ことは,立場を超えた共創関係を生み出し,信頼や関係づくりにとっても重要だったのです。たとえ活動の成果がすぐには生まれなかったとしても,その活動の中で培われた関係は失われません。そういった信頼貯金が,いざという時に活きてくるのです。
技術者としては,すぐになにかソリューションを作りたくなってしまうのですが,その作業をおこなうことで,関わる人たちやコミュニティメンバーとの関係性が向上するのか,新しい学びがあるのか,仮説検証に結びつくのか,といったことをしっかり考えないと,せっかく費やした時間が無駄になるどころか,悪い効果を生んでしまうかもしれません。

5. 常に敏感で洞察的で辛抱強くあろう

「答えはオーディエンスの頭の中にある」と本書で書かれていますが,シビックテックの活動がボトムアップであることの理由がまさにここにあります。すべての課題に通用する銀の弾丸はありません。似たような課題に思えても,同じソリューションが通じるとは限らないのです。特に地域のコミュニティというのは本当に多様です。
シビックテックには,Build with, not forという言葉があります。だれかのためのサービスを一方的に作るよりも,当事者とともにサービスを作るほうがよりニーズにあったものができるというニュアンスです。オープンソーステクノロジーは,このような場合にも役に立ちます。あるソリューションのいいところを取り入れつつ,現場の多様性に合わせたカスタマイズを可能とするからです。
Code for Sapporoが開発した,さっぽろ子育てマップというアプリがあります。保育園や幼稚園を地図上でかんたんに探せるようにしたアプリケーションですが,開発を主導したのは,子育て中の母親でした。自分の子供を通わせる保育園を自治体のWebサイトから探すのがたいへんだった,という実体験から,自治体のWebサイトをクローリングして,⁠自分が欲しい」サイトを仲間と作り上げたのです。
まさに,Build withを体現した出来事だと思いました。現在は札幌市が地図で保育園を探す機能を提供していたりするためこのサイト自身は稼働していませんが,オープンソースとして公開されたこのツールは,他のブリゲードコミュニティによってカスタマイズされ利用されています。
なにかインパクトのあることをおこなうチャンスは突然やってきますが,そのチャンスを見逃さず,対応ができるようになるには,普段からの活動が重要です。コミュニティとともに活動をし続けることで,いざ打順が回ってきた時に対応できる力がついてきます。本書にあるように,まずは走る前に歩くことを学ぶ必要があります。

6. 意表を突こう

ポジティブな驚きは創造性の元でもあると思います。Code for Japanは毎年 Code for Japan Summitというイベントをおこなっていますが,企画メンバーの創造性には毎回驚かされます。講演内容をグラフィックでリアルタイムに表現する「グラフィックレコーディング」を2014年という早い段階で取り入れたり,全セッションで字幕を入れたり,毎回創意工夫があります。停滞や退屈を防ぐための工夫は歓迎されますし,何より楽しいです。
シビックテックの活動には,地道で地味な作業も多いです。地域課題や社会課題は,市場原理では解決できない,つまりビジネスとして成り立たせるのが難しい分野も多いからこそ,意表をついたアイデアが必要になります。
⁠BADオープンデータ供養寺」は,世の中にあふれる,機械可読性の悪いオープンデータをデータクレンジングで供養するというコンセプトのプロジェクトです。Code for Japan Summitのセッションとから始まったプロジェクトでたいへん人気があり,Webサイトも公開されています。データクレンジングという地味な作業をネタとして昇華し,エンターテインメント化することで,より多くの人に,正しいデータを公開することの大事さを楽しみながら知ってもらうことができます。

▼図1_3 BADオープンデータ供養寺トップページ

図1_3

https://bad-data.rip/

オンボーディングとエンゲージメント

本書のコミュニティマネジメントの理論は,実にわかりやすくまとまっています。

▼図1_4 コミュニティ参加のフレームワーク

図1_4

オンボーディングプロセス,エンゲージメントプロセスの視点から,Code for Japanのコミュニティについて検討してみます。

オンボーディングプロセス

Code for Japanでは,さまざまなチャンネルから新規の参加者が入ってきます。シビックテックの裾野は広く,各地域で活動をしたいと考える参加者には,お近くのブリゲイド(Code for コミュニティ)をご紹介しています。各地のコミュニティでは,参加方法はさまざまですが,定例会などを開催して参加機会を設けているところが多いです。
Code for Japanでは,たとえば以下のような機会があります。シビックテックの初心者向けの参加手段をまとめた記事なども公開しています。
https://www.code4japan.org/news/how-to-join

Slack

もっとも気軽に参加できるのがSlackワークスペースです。だれでも参加でき,いろいろなチャンネルがあるので興味に応じて関連するチャンネルに参加できますし,イベント情報なども共有されます。新規参加者はまずintroチャンネルでの自己紹介を推奨されます。
新型コロナウイルス感染症が広がる前には400名程度だった参加者は,執筆現在で15倍の6,000名を超えています。

ソーシャルハックデー

毎月開催している1dayハッカソンです。1回限りで終わるハッカソンとは違い毎月おこなっているため,継続的にチームが参加し,少しづつプロジェクトをブラッシュアップすることができます。すでに動いているプロジェクトへの参加もできますので,新規参加者にとっては興味のあるプロジェクトを見つける機会にもなります。
新規の参加者向けには,疑問にお答えするためのガイダンスや相談コーナーも設けています。

シビックテックライブ

シビックテックライブは,⁠シビックテックの活動についてもっと知りたい」あるいは「自分たちの最近の活動を紹介したい」という人のためのイベントです。毎回テーマを決めて,そのテーマに沿った活動をしているゲストをお呼びしてトークをおこないます。
学生インターンが中心となって企画運営をおこなっており,インターンにとっての活動の場所でもあります。いきなりハックデーに参加して手を動かすのは想像できないなという方にとっては安心してまず知ってもらう機会にもなるかもしれません。

各種オープンソースプロジェクト

Code for Japanでは,プロジェクトをできるだけオープンソースソフトウェアとして公開するようにしています。東京都の委託を受けて開発した新型コロナ感染症対策サイトもその1つです。このプロジェクトは,Code for Japanの活動を大きく世の中に知らしめるきっかけにもなりました。
GitHubというサイトでソースコードを公開し,一般開発者が自由にアイデア出しや機能改善に貢献できるようにしましたが,これまでの累計参加者は300名を超えています。初めての人でも参加しやすいように,READMEファイルを作ったり,プロジェクトの目的や行動規範を示したドキュメントを整備したりしました。参加者に期待することを明確にしておくことにより,大きなトラブルもなく多くの人が参加できています。
海外のシビックテックの活動に目を向けてみると,活動のヒントを知ることができるCivicTech Field Guide,Youtubeによる紹介コーナー,毎週おこなっているプロジェクト推進ミーティングのCivicTech Night,シビックテックプロジェクトのガイドブックであるCivicTech PlayBookなどなど,多彩な情報源が見つかります。
技術者だけでなく多様な参加者が必要なシビックテックだからこそ,初心者向けのオンボーディングはとても大切だと感じます。
Code for Japanではまだ,本書に書かれているような明示的なKPIなどは決まっていないので,ぜひ本書を参考にプロセス定義をおこなってみたいと思います。

エンゲージメントプロセス

カジュアル層の活動は,Slackでの書き込みやTwitterやブログ記事のシェア,プロジェクトへのスポット的な参加などが当てはまると思います。また,シビックテックライブやソーシャルハックデーなどイベントへの単発参加も入るかもしれません。
また,年に一回開催されるCode for Japan Summitには1,000人を超える方に参加いただいています。こういったカジュアルな機会に参加して,興味のあるプロジェクトや地域の活動の雰囲気を知ってもらい,次のアクションにつなげてもらう形になります。
また,サミットは,活動をおこなっているレギュラー層にとっても他の地域のノウハウや経験を学ぶことができる場となっています。
参加したい活動が見つかったら,ソーシャルハックデーなどに参加してサービス開発をしているチームに入ってみたり,隙間時間を使ってすでにあるサービスの改善を行なったりしながらレギュラー化していきます。各地のブリゲイドも定例会などをおこなっており,そういった場への参加も推奨しています。
また,前述のCivictech Challenge Cup U-22 も,仲間を見つけたり,テーマを決めたりしながら,シビックテックの世界に踏み出すいい一歩になっています。
さらに活動に深くコミットしているのがコアメンバーです。Code forJapanの社員やプロジェクトのパートナー企業の社員のように,仕事としてプロジェクト活動をおこなっている人たちもいますし,ソーシャルテクノロジーオフィサーとしてNPOの中で働く人たちもいます。インターンとしてイベント運営やコミュニティ運営に関わっているメンバーも多いです。

意味のある価値があってこそのコミュニティ

ここまでいろいろ書いてきましたが,本書で述べられているように,コミュニティにはさまざまな形があり,同じ方法が常に通用するわけではありません。コミュニティと一口にいっても実態はさまざまですし,その時々で参加する人たちの属性も違いますし,タイミングによってもモチベーションに違いが出てきます。
本書を読んであらためて感じたことは,⁠意味のある価値」を作ることの重要性です。コミュニティの参加者は,給与などの金銭的価値を対価として活動をするわけではありません。たとえば本書の中に,以下のような記述が出てきます。

「意味のある価値を作り上げることと,その消費を促すことの両方にフォーカスする必要がある。それにより,この勢いが本当に活用できる(第2章⁠⁠。」

▼図1.5 人間がコミュニティに帰属するまで

図1_5

有意義だと感じられることに参加し,その結果自らも成長する,その結果として居場所が作られていく。自分が好きな場所だからこそ,その場の価値を高めることに貢献したくなる。そのドライバーが「意味のある価値」です。
⁠意味のある価値」をどのように作り,届けていくのか。そのプロセスの中にどのように参加してもらい,一体感を感じてもらうのか。
コミュニティを始めることはかんたんですが,そのコミュニティを育てながら,かつ参加者が自律的に活動するような場所にすることはかんたんなことではありません。しかし,その努力自体は私たちに貴重な学びをもたらしてくれるでしょう。
本書には,コミュニティを運営するうえで重視すべき事柄や,実践的なプラクティスが詰まっています。あなたの,コミュニティ運営という深淵な旅のガイドとしてとても役に立つと思います。
それでは,いい旅を!

著者プロフィール

関治之(せきはるゆき)

解説者。
一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事。「テクノロジーで,地域をより住みやすく」をモットーに,会社の枠を超えて様々なコミュニティで積極的に活動する。
住民や行政,企業が共創しながらより良い社会を作るための技術「シビックテック」を日本で推進している他,オープンソースGISを使ったシステム開発企業,合同会社 Georepublic Japan CEO及び,企業のオープンイノベーションを支援する株式会社HackCampの代表取締役社長も勤める。
また,デジタル庁のプロジェクトマネージャーや神戸市のチーフ・イノベーション・オフィサー,東京都のチーフデジタルサービスフェローなど,行政のオープンガバナンス化やデータ活用,デジタル活用を支援している。
その他の役職:総務省 地域情報化アドバイザー,内閣官房 オープンデータ伝道師 など。