新春特別企画

電子出版の世界を“アップデート”していこう~2019年の先の電子出版ビジネスを考える

この記事を読むのに必要な時間:およそ 5.5 分

5Gを見据えたコンテンツづくり

次に,2019年の先,2020年以降のインターネット環境の動きにも触れます。なんと言っても大きいのは5G(第5世代移動通信システム)の提供開始でしょう。

2019年1月時点で,NTTドコモソフトバンクau,それぞれのキャリアから2020年からのサービス開始が予定されています。

5Gの詳細な説明は割愛しますが,特徴である「超高速」⁠大容量」⁠低遅延」⁠多接続」⁠高信頼」が実現されることで,その通信に乗るコンテンツの価値は高まります。今から,5Gを想定したコンテンツに取り組むことは十分に価値があることだと考えます。

一方で,2018年12月に起きたソフトバンクの通信障害のように,突然,インターネット接続ができなくなる場合があります。

コンテンツを配信する側としては,インターネット環境の成長により,扱える情報の量や質が拡大していく一方で,この例のように,突然インターネットが接続なくなる場合も考えなければいけないでしょう。インターネットで流通できるコンテンツの質を高めることと併せて,オフラインの状況でも快適に読んだり聞いたりできるコンテンツであることも意識しておく必要があると考えます。

売り方と読み方の変化~決済手段の多様化,デジタルファースト,読み放題から無料公開へ

各種決済サービスの連携とその後

最後に,電子出版の枠を越えた,インターネット経由での出版,書籍や雑誌の売り方について,最近の動きを紹介します。

まず,購入に関する決済手段の多様化について考えてみます。2018年,日本では「キャッシュレス」というキーワードを目にする機会が多くなりました。まず,2018年4月に経済産業省が「キャッシュレス・ビジョン」⁠クレジットカードデータ利用に係るAPIガイドライン」を策定しました。

また,官の動きよりも早く,民間ではすでにインターネット企業が今,キャッシュレスを実現するための電子決済サービスに参入し,2018年は,店舗側への導入が進んだ1年になっています。

ヤフーが提供するサービスPayPayが12月に実施した「100億円あげちゃう」キャンペーンの反響の大きさは記憶に新しいところでしょう。

2019年1月現在,PayPayではまだオンライン決済には対応しておらず実店舗での導入が中心ではあります(2019年2月からヤフーが運営する「Yahoo!ショッピング」⁠ヤフオク!」⁠LOHACO」での導入が予定されている)が,たとえば,LINE Payは各種ECに加えて,hontoやRenta!など電子書店での利用が可能となっています。

今後,各種電子決済サービスが電子書店まで普及することで,ユーザにとってのお金の流れ,また,決済サービス上で利用できるポイントによるキャンペーンなど,購買行動へ新たな動きが出てくるかもしれません。

デジタルファースト&無料公開への流れ

決済以外に,読み手にとって,インターネットを通じた読書体験への流入の動きにも注目したいです。

デジタルファーストの動き

2016~2017年は,電子出版において読み放題(定額サービス)が1つのムーブメントとなりました。これまでは,1冊1冊をパッケージとして買っていたものを,定額支払いで,好きなときに(用意されているコンテンツの中から)好きなものを読める体験ができるようになったのです。

いわゆるサブスクリプションモデルです。電子出版に限らず,先行していた音楽コンテンツ,そして,最近は映像コンテンツでも一般化しており,今後のコンテンツへの課金手段の1つとして,さらに浸透していくでしょう。

流通に関して言うと,従来の紙の書籍の電子化ではサイマル発売(紙版と電子版の発売日を揃えること)に注目が集まり,ここ数年,多くの出版社のコンテンツでサイマル発売を実施しています。

そして,2018年に入り,サイマル発売の次の一手として,電子版を先に発売し,後追いで紙版を発売するデジタルファーストの動きが見えてきました。

私たち技術評論社でも,2018年10月に発売したハードウェアハッカー~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険に関して,紙版の発売日(10月19日)より10日早く,Gihyo Digital PublishingやAmazon Kindleで先行発売を実施し,電子版はもちろん,紙版も紙の発売日同日に重版出来が決まる,プラスの効果が見られました。

筆者は今なお,⁠電子出版市場は紙の市場を奪ってしまう」という意見を耳にすることがあります。しかし,この『ハードウェアハッカー~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険』の実績は,その意見に一石を投じた結果と言えるのではないでしょうか。

今後もデジタルファーストの取り組みは増やしていきたいと考えています。

Web上の無料公開を入り口に

そして,読み放題やデジタルファーストとまた違った形で,読み手にとって読書の入口になりつつあるのが,Web上での「無料公開」です。

2018年9月,『ビジネスモデル2.0図鑑』⁠近藤哲朗著・KADOKAWA刊)は発売2週間前にコンテンツ制作・配信サービス「note」上で全文公開を行い,発売2日後に重版出来が決まったことで話題となりました。

ちなみに,配信プラットフォームのnote側でも,note上で書籍全文あるいは書籍の章を全文公開しているエントリをまとめた全文公開noteを提供しています。

また,2018年11月に発売された『新世界』⁠西野亮廣著・KADOKAWA刊)に関して,発売1ヵ月で13万部突破というヒットとなったところで,著者の西野氏が,Webマガジン『新R25』で内容の全文公開を行いました。西野氏と言えば,2年前の2017年1月に,発売から1ヵ月半の著作『えんとつ町のプペル』を同じくWebへ全公開しているのですが,今回はビジネス書という別のジャンルという点・10万部を超えているベストセラーで実施している点に注目し,このあとの販売動向にも注目していきたいです。

書籍の内容転載に関しては,たとえばPHPオンライン衆知スタディウォーカーなど,オンラインメディア内に既刊書籍の一部公開をすることで,メディアコンテンツの拡充を,出版物の販促につなげる動きが出ています。

書籍・雑誌・コンテンツがあるからこそできること

このように,Webや各種ソーシャルメディアを通じて,コンテンツ(の中身)に触れられる機会は年々増していると言えるでしょう。大前提となるのは,書籍や雑誌など,⁠コンテンツ⁠があるという点です。さらに,電子出版の場合,コンテンツがデジタルであるがゆえに,Webをはじめとしたさまざまな手法・施策と相性が良いわけです。

ですから,このような周辺環境(コンテンツを配信する・流通するプラットフォーム)の動きに対し,必要以上に区分けをせず,どれか1つを選ぶというよりは,状況に応じて使い分ける,あるいは,すべてをうまく活用していくということが,より一層重要になっていくと筆者は考えています。

インターネットを通じてコンテンツに触れる,Webを通じてコンテンツを読むという体験が,出版物全体の販売にどのような効果が出てくるのか,今後も注目したいです。

インターネット登場以降の,出版物を取り巻く環境については,先日公開された仲俣暁生氏のいま本をめぐる環境は,とてもよいのではないかでも取り上げられているので,興味をお持ちの方はぜひご覧ください。

著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

Twitte ID:tomihisa(http://twitter.com/tomihisa/

バックナンバー

新春特別企画

バックナンバー一覧

コメント

コメントの記入