tanQブックスシリーズ天才ガロアの発想力
―対称性と群が明かす方程式の秘密―

この本の概要

2次方程式を解くときに使われる解の公式。実はルート数の作る「体」や「群」という考えを使えば,3次・4次方程式の解の公式も導くことができるのです。では,5次方程式の場合はあるのでしょうか。解ける方程式,解けない方程式,そのカギを握るのが「体」や「群」であり,それを編み出したのが,21歳という若さで世を去った数学者エヴァリスト・ガロアなのです。方程式の図形的な性質(対称性)やあみだくじの例を挙げながら,ガロアの発想と理論を小島先生がわかりやすく説きます。

こんな方におすすめ

  • 方程式がなぜ解けるのか,興味がある一般の人
  • ガロアという数学者に関心がある人
  • “数”に好奇心を抱いている人全般
  • ガロア理論,群,体を明快に理解したい人

著者の一言

2次方程式の解の公式「にえーぶんのまいなすびー・・・」というのは,中学高校のときに暗記させられたことと思います。これが見つかったのは紀元前のことです。幸いなことに複雑すぎて暗記を強制されませんが,3次方程式にも4次方程式にも解の公式が存在します。これらが発見されたのは16世紀のこと。そして,5次以上の方程式の解の公式の発見は,それから300年も数学者を悩ませる難題となりました。この問題を解決したのが,19世紀のフランスの数学者ガロアでした。しかも,解決は否定的,つまり,「そんなものは存在しない」ということを証明したわけです。

この解決は数学史上最大のスキャンダルと言っていいものでした。それは,19歳でこの問題を解決したガロアが,二十歳で死んだからです。しかも,死因は,一人の女性をめぐってピストルで決闘をして,そこで撃たれたことでした。ガロアは決闘の前夜,論文の余白に遺書を書き,その出版を親友に託しました。その論文が,その後200年の数学の趨勢を決めてしまうような画期的なものとなったのだから信じられないかっこよさです。古今東西,こんな数学者は他にはいません。

本書は,そのガロアの一世一代の定理「ガロアの定理」の平明な解説書です。本書の特徴は,淡々と数学的記述を繰り広げるのではなくて,言葉を尽くして,ガロアがなぜそう考えたのか,その概念の向こうに何を見ていたのか,どんな発想力から定理を生み出したのか,それらに迫るような書き方を心がけたことだといえます。なので,本書は,教室で先生の講義を聴くように読み進むことができるのではないかと思います。

ガロアの発想の根幹にあるのは,「対称性」です。対称性というのは,一言でいえば,「見わけがつかないこと」「動かしてもわからないこと」です。ガロアは,対称性の本質をこのように鋭く見抜き,「群」という新奇な数学概念を生み出しました。「群」というのは,「動きを代数化する」ことによって,対称性をあぶりだす手法なのです。方程式の解には,「代数的には見わけがつかない」という形で対称性が存在します。5次以上の方程式の解の持つ代数的な対称性があまりに複雑なので解の公式が存在し得ない,それがガロアの発想なのです。

本書は,このガロアの世紀の数学的ひらめきに,ワンステップずつ接近しながら,最後にはガロアの成果を越えて現代的なガロア理論の解説にも踏み込んでいます。是非とも,数学の見事な進化とそれを成し遂げたガロアのかっこよさをご堪能くださいませ。

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―この疑問に明解な答えを与えたのが21歳という若さで世を去った数学者エヴァリスト・ガロア。波乱万丈の生涯を若くして閉じたガロアですが,それは数学上実に凝縮されたものでした。

本書のサンプル

本書の一部ページを,PDFで確認することができます。

著者プロフィール

小島寛之(こじまひろゆき)

1958年東京生まれ。東京大学理学部数学科卒業後,同大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。帝京大学経済学部経済学科教授。

数理経済学,ゲーム理論,意思決定論を専門とする経済学者として旺盛な研究・執筆活動を行うかたわら,数学エッセイストとしても活躍。主な著作に,『無限を読みとく数学入門』『世界を読みとく数学入門』(以上,角川ソフィア文庫),『キュートな数学名作問題集』(ちくまプリマー新書),『使える!確率的思考』(ちくま新書),『完全独習統計学入門』(ダイヤモンド社),『ゼロから学ぶ線形代数』(講談社)など。