知の扉
量子論はなぜわかりにくいのか 「粒子と波動の二重性」の謎を解く
- 吉田伸夫 著
- 定価
- 1,738円(本体1,580円+税10%)
- 発売日
- 2017.4.13
- 判型
- 四六
- 頁数
- 208ページ
- ISBN
- 978-4-7741-8818-8 978-4-7741-8948-2
サポート情報
概要
「粒子であると同時に波である」???
それって、結局どういうこと?
量子論の具体的なイメージが描けず
くじけがちな初学者へ向け、
リアルなモデルを使ってていねいに解説する
今度こそわかりたいあなたのための量子論入門。
こんな方にオススメ
- 量子論に取り組んでみたが今ひとつピンとこない初学者、サイエンスファン
目次
第1章 量子論とはいかなる理論なのか
- 実用ツールとしての量子論
- 量子論は常識に反する理論か
- 幾何学的秩序を生み出す量子効果
- 秩序の根底にある波動
第2章 波と量子
- 原子はなぜ安定に存在できるのか
- 量子仮説の登場
- ボーアの原子模型
- 物質波から波動関数へ
- 波動一元論の破綻
- 波動関数とは何か
- 台風の確率予報と波動関数
- シュレディンガーの洞察を生かす道
第3章 相補性の落とし穴
- ゾンマーフェルトの量子条件
- 行列力学の誕生
- 行列力学の体系化
- 行列力学における方法論の変質
- 交換関係は原理か
- 相補性の落とし穴
第4章 場の量子論と実在
- 光は粒子か波動か
- 場の量子論の受容
- 場を量子化する
- 量子論と実在
第5章 誤差・揺らぎ・不確定性
- ハイゼンベルクの思考実験
- 擾乱のない測定と小澤の不等式
- 不確定性関係の導き方
- 不確定性関係は何を意味するか
- 経路積分の考え方
- 経路積分法に基づく不確定性の解釈
- 揺らぎの拡がりとしての不確定性
第6章 混乱する解釈
- ノイマンによる観測の理論
- 量子論的な《歴史》
- 霧箱における観測の理論
- 二重スリット実験とデコヒーレンス
- デコヒーレンスに基づく《歴史》記述
- デコヒーレンスの不完全さと多世界解釈
- 場の量子論における《歴史》
第7章 相関か相互作用か
- EPR相関とは何か
- EPR相関の統計的性格
- 光子の偏光
- 偏光におけるEPR相関の観測
- ベルの限界
- ベルの限界の求め方
- ベルの限界はなぜ破られたか
第8章 量子論の本質
- 場の量子論が描く世界
- 要素に還元できない物理現象
- 量子論はなぜわかりにくいのか
著者の一言
量子論は、漫画やアニメなどのサブカルチャー作品で、結構もてはやされているようだ。人気アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』では、オープニングタイトルのバックに物理学の学術用語や数式が次々と映し出されており、その中には、ブラ=ケット記法で書かれたシュレディンガー方程式や、スピンの交換関係などもある。
もっとも、こうした扱いは、きちんとした学問的理解に基づいているわけではない。『ノエイン もうひとりの君へ』では、多世界解釈らしきものに基づいて、運命を選び直す可能性が示唆されているし、『ゼーガペイン』では、量子コンピュータの内部に現実と変わらない擬似世界が構築されている。いずれも、物理学的にはあり得ないファンタジーの話である。SF作家のアーサー・C・クラークは、「高度に発達した科学は魔術と見分けがつかない」という名言を残したが、どうやら多くの現代人にとって、量子論は、科学と言うより魔術に近いものに見えるらしい。
量子論が魔術じみたものとして捉えられるのは、一般に流布している解説が常識を大きく逸脱しているせいでもあろう。「シュレディンガーの猫」「多世界解釈」「量子もつれ」といった量子論の話題は、しばしばあまりに現実離れした説明がなされ、人々を混乱させる。
私に言わせれば、こうした常識を逸脱する説明は、量子論に対する誤解を増やすだけである。量子論は、もっとリアルで実用的な理論であり、常識に沿った範囲で理解することが可能である。本書は、リアルなイメージに基づいて、常識的な立場から量子論を理解しようとする試みである。
本書で語られる量子論は、あまりにリアルすぎて、漫画やアニメに登場する量子論に比べると、夢がないと感じられるかもしれない。しかし、これが(私の信じるところによれば)量子論の真の姿である。高度に発達した科学でも、充分な知識があれば、魔術とは異なる合理的なものであることがわかるはずだ。