コミュニケーションの問題地図 ~「で、どこから変える?」意識バラバラ、情報共有できない職場~

著者の一言

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コミュニケーションなる思考停止ワードに,そろそろ真剣に向き合おう!

いつの時代も,コミュニケーションの悩みは尽きません。なぜなら,人の価値観も,考え方も,行動スタイルも,そして環境も,日々変化し続けているからです。世の中に,2つとして同じ組織は存在しません。ある組織でうまく機能していたコミュニケーションのやり方が,ほかの組織でもうまくいくとは限らない。その逆もまたしかりです。人が組織の営みをする限り,コミュニケーションの問題は永遠に解決することのないテーマと言ってもいいでしょう。

そもそも,コミュニケーションなる言葉が大きすぎる。ビッグワードすぎる。率直に言って,コミュニケーションに対する向き合い方が雑すぎる。私はそこに,コミュニケーションのさまざまなトラブルの根っこがあるととらえています。

  • 「社長は『コミュニケーションをよくしよう!』と唱えた。しかしなにもおこらなかった」
  • 部長がやみくもに対面での会話を増やそうとする。忙しいメンバーはますます忙殺される
  • 課長がやたら「1on1ミーティング」をしたがる。メンバーは逃げたがる。なぜなら,一方的に詰められるだけだから
  • 部課長「聞いてないよ!⁠⁠ 担当者「言ってませんもの!」
  • SlackやTeamsのチャットを使いこなす人たち vs. メールや口頭を好む人たち
  • オフィスに出社しているメンバーと,テレワークをしているメンバーとの間に立ちはだかる「標高温度差」
  • 飲みの場と,タバコ部屋の人間関係ですべてが決まる,オールドボーイズネットワーク的意思決定スタイル。ダイバーシティ&インクルージョンはどこ行った?

ずばり,⁠コミュニケーション」は思考停止ワード,行動停止ワードの代表格です。

「コミュニケーションをよくしよう!」

  • その心意気はいいものの,肝心なコミュニケーションの中身について,だれも真剣に論じようとしない。
  • あるいは,1on1ミーティングなどの流行りの手法に走ろうとする。
  • ともすれば,コミュニケーションをよくしようとだけ主張して,その中身や方法は相手任せ。
  • なおかつ「俺たちに心地いいコミュニケーションをしろ!」のような心持ちで,自分たちに慣れた暗黙のスタイルに相手を合わさせようとする。

それでは,コミュニケーションはうまくいきません。

コミュニケーションをよくしたい。しびれを切らした(あるいは経営者から指示された)人事部門は,コミュニケーションスキルを上達させるための社内研修を企画する。それはいいのですが,その中身が「とにかく上の人たちに忖度せよ」⁠上の人たちに心地いいコミュニケーションスタイルを体得せよ」のような内容だったりするものだから,受講する社員はモチベーションが上がらないし,身にならない。なにより,組織が正しく成長しない。このようなモヤモヤを,私は全国の組織で見聞きしています。

組織開発を探求する私の仲間の1人である小金蔵人(こがねくらと)さんは,SNSで次のような発信をしています。

「コミュニケーションスキル」とひと言で言っても「話す力」⁠聞く力」⁠書く力」⁠読む力」⁠会話力」⁠議論力」⁠対話力」⁠コーチング力」⁠ティーチング力」⁠フィードバック力」⁠雑談力」⁠説得力」⁠プレゼン力」のどれのことを言ってるのか,常に解像度を高める必要があるよね。

私は小金さんのこの発言に100%共感します。コミュニケーションスキルひとつとっても,⁠どんなスキルがその組織において求められるのか?」⁠そもそも,なぜそのスキルが必要なのか?」などを自分たちごととして考えて取捨選択していかないことには,宝の持ち腐れ。意味をなさないことになります。

コミュニケーションの問題を論じる時,私たちは,その組織あるいは仕事のシーンにおいて求められるコミュニケーションの解像度を上げていく,つまりはコミュニケーションの要件定義をする必要があります。

  • その組織や仕事(ミッション)においてどんなコミュニケーションが足りていないか?
  • いつ,だれと,どんなコミュニケーションを発生させていきたいか?
  • どんなコミュニケーションスキルが必要か?
  • コミュニケーションによりどのような課題を解決したいか?

そしてコミュニケーションの要件定義をするうえで,私は次の5つの要素に着目すべきと考えます。コミュニケーションの5つの要素,それは環境,プロセス,関係性,スキル,カルチャーです。

  • ①環境
    意見を言いやすい場や雰囲気があるか?
  • ②プロセス
    オンライン,オフラインそれぞれのツールや場のバリエーションや選択肢があるか?
    悪気なく古いやり方の一方的な押しつけになっていないか?
  • ③関係性
    マネージャーとメンバー,マネージャー同士,経営陣とマネージャー陣と現場,部門同士,組織の外の人たちなどのステークホルダーと,適切な接点を持ち,その組織が理想とする関係を築くことができているか?
    悪気なく指示命令型の上下関係になっていないか?
    同質性の高い「井の中の蛙」集団になっていないか?
  • ④スキル
    プレゼンテーション,ファシリテーション,傾聴力などのいわゆるコミュニケーションスキル,ITスキルなどツールを使いこなすスキル,ロジカルシンキング/クリティカルシンキングなどコミュニケーションの組み立てや設計に必須のスキルをメンバー(含むマネージャーやリーダー)が身につけているか?
  • ⑤カルチャー
    その組織において,どんなコミュニケーションを理想とするか?

この5つの要素を定義し,足りないものを補っていく。やり方をアップデート(最新化)していく。その取り組みこそが,⁠コミュニケーションごっこ」に陥らない,有意義なコミュニケーションをあなたとあなたの組織にもたらします。あなたの組織に関わる人たちを幸せにします。

本書では,コミュニケーションなるビッグワード,思考停止ワードを分解し,⁠声の大きい人たち」だけに優位な「オレオレコミュニケーション」⁠気合・根性型コミュニケーション論」に終わらせない,組織と関わる人たちがともに未来に向けて成長するためのコミュニケーション論を展開します。本書が,あなたとあなたの組織のコミュニケーションの要件定義の足がかりになればと思います。

  • コミュニケーションが起こらない
  • コミュニケーションが悪い

それは,裏を返せば,あなたやあなたの組織でコミュニケーションをする意味がない(あるいはコミュニケーションするのがめんどくさい)――そんな無力感を皆が持っているからではないでしょうか?

大切なのは,無力感の解消。

  • 「この人とコミュニケーションしたい!」
  • 「この人たちと対話したい!」
  • 「このチームでは意見を言う甲斐がある!」

そう思えるような,組織と人を創っていきましょう。私たち1人1人の半径5m以内から。

著者プロフィール

沢渡あまね(さわたりあまね)

作家/ワークスタイル&組織開発専門家。『組織変革Lab』主宰。DX白書2023有識者委員。

あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/浜松ワークスタイルLab所長/国内大手企業人事部門顧問ほか。

日産自動車,NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で,働き方改革,組織変革,マネジメント変革の伴走・講演および執筆・メディア出演をおこなう。

著書は『職場の問題地図』『新時代を生き抜く越境思考』『話が進む仕切り方』『どこでも成果を出す技術』『バリューサイクル・マネジメント』『仕事ごっこ』『業務デザインの発想法』(技術評論社)ほか多数。

趣味はダムめぐり。#ダム際ワーキング 推進者。

ホームページ:http://amane-career.com/

Twitter:@amane_sawatari