OSSデータベース取り取り時報

第62回 「多様性時代のDB選択」報告,MySQL Database Service東京リージョン展開,PostgreSQL 13正式リリースとPGEConsの活動成果公開

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この連載では,OSSコンソーシアム データベース部会のメンバーが,さまざまなオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。

「多様性時代のDB選択」「オープンソースカンファレンスOnline/Kyoto」で開催

8月末の「オープンソースカンファレンス(OSC⁠⁠ Online/Kyoto」で,OSSデータベース特集企画「多様性時代のDB選択」を実施しました。前回のこの連載に間に合わなかったこの企画の内容をお伝えします。これは,OSSのデータベースエンジンには特徴的で優れたものがいろいろとあるので,それらの多様なDBMSにもっと目を向けてもらうための企画トラックです。

オープニング基調講演

“多様性⁠と銘打っているので,誰でも知っているものではなくて,特徴的な活動を国内で行われている中心メンバーにご講演いただきました。2016年にOSS公開をして実績を積み上げつつあるNoSQLの「GridDB」と,2022年にα版予定で新時代の突破口を開こうとしているRDBの「Tsurugi」です。

オープニング基調講演の登壇者 司会:溝口則行(左⁠⁠,東芝デジタルソリューションズ 栗田雅芳氏(中⁠⁠,ノーチラス・テクロノジーズ 神林飛志氏(右)

オープニング基調講演の登壇者 司会:溝口則行(左),東芝デジタルソリューションズ 栗田雅芳氏(中),ノーチラス・テクロノジーズ 神林飛志氏(右)

①『オープンソースデータベースGridDB ~ なぜデータベースを開発したのか?その理由とGridDBの概要紹介~』

《発表者》栗田 雅芳(東芝デジタルソリューションズ)

GridDBは,社会インフラを支える情報システムが生み出す膨大なセンシングデータを扱うために開発されたDBエンジンです。ミッションクリティカルなNoSQLと呼んでもいいかもしれません。リアルタイム性と高信頼性を両立させることを目指しています。2011年から開発が始まり,2016年からOSSとして公開されています。他のカテゴリと同様にNoSQLツールも海外で開発されたものがよく知られていますが,国内でも腰を据えて開発に取り組んでいるチームがあることを知っていただきたいと思います。

②『Project Tsurugi(劒)の紹介』

《発表者》神林 飛志(ノーチラス・テクノロジーズ)

発表いただいた「Tsurugi」は開発途中のDBエンジンなので,ご存知の方はまだ少ないでしょう。分類としてはリレーショナルDBMSですが,とにかく,とてつもなく挑戦的なプロジェクトです。現在よく使われているRDBは,今のハードウェアで実現可能な性能を出せていないので,大幅な性能向上を実現するために,産学協同で新しいエンジンを開発する道を選んでいます。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業という形態でもあるので,産官学で取り組んでいるプロジェクトと言えるでしょう。

昨年の「OSSデータベース比較セミナー」で紹介いただいた際本連載第45回には,大規模OLTP(OnLine Transaction Processing)エンジンという位置付けで紹介いただきましたが,今回のお話では,OLTPに加えてOLAP(OnLine Analytical Processing)への適用も狙っている様です。開発はまだ途上で,2022年にα版を公開したいとのこと。技術的にも応用面でも,これまでの限界を突破してくれることが期待されます。

激論!DBMS選択のニューノーマルは?(パネルディスカッション)

「多様性時代のDB選択」をテーマにしたパネルディスカッションは,4月の「オープンソースカンファレンス2020 Online/Spring」でも実施しました。今回はその続きになります。パネリストへの問いかけは,1つめが「データ処理ツール(DBMS)は多様化に向かうべきか?⁠⁠,2つめが「DBの稼働環境もクラウドが当たり前になっていくのか?」です。パネリストの皆さんのコメントをピックアップします。いろんな観点や見方がありますし,プラス面もマイナス面もあることの気づきの一助となればと思います。

《パネリスト》
梶山 隆輔(Oracle Corporation MySQL GBU/OSSコンソーシアム データベース部会)
栗田 雅芳(東芝デジタルソリューションズ)
才所 秀明(日立ソリューションズ/OSSコンソーシアム 分散コンピューティング部会)
高塚 遥(SRA OSS, Inc. 日本支社)
《モデレータ》
溝口 則行(TIS/オープンソースビジネス推進協議会/OSSコンソーシアム)
①データ処理ツール(DBMS)は多様化に向かうべきか?
  • あらゆる要件に対応できるDBMSがあるわけではないので,用途に合わせることは必然である。
  • 基本的には多様化に向かうべきだし,実際に向かっていると思う。エンタープライズ系でも慎重ではあるが,従来のRDBで難しい場合は新しいものを取り入れようとしている。
  • 伝統的なRDBはいろんな使い方ができるオールラウンダーでもあるので,RDBで通用する範囲であれば,RDBでいいだろう。
  • クラウド事業者が出しているアーキテクチャのガイド文書でも,データストアは選択すべし,といった主張をしているものもある。
  • DBエンジンが用途ごとにバラバラだと,開発も運用も面倒なのもたしかだろう。使うツールをある程度絞ろうとする意図もわかる。
②DBの稼働環境もクラウドが当たり前になっていくのか?
  • DBに限らず,ハードウェアなどインフラを保有することに疑問を感じているケースが増えつつあるので,自然とクラウドに向かうだろう。
  • クラウドのマネージドサービス(AWSのAuroraなど)はよくできていて,クラウドにDBを載せるのに一役買っている。
  • クラウドでなくても,自社保有の仮想化基盤に載せているケースの方が今では多い。クラウドと自社仮想化基盤のハイブリッドな環境をターゲットにした運用環境が望ましい。
  • クラウドでは機能面や構成面での自由度が制限される場合もある。たとえば,DBサーバのクラスタ化の方法など。
  • 社会インフラ系の計測データなどだと,データ量やセキュリティ観点などでパブリッククラウドが使い難いケースもある。
  • クラウドでは,大規模なデータを継続的に保存しようとすると,ストレージコストが高価になるケースもあり,要注意。
  • 人材の技術修得の問題がある場合に,クラウドのマネージドサービスだと挑戦の敷居が下がるので,クラウドを上手に使って欲しい。
  • クラウドベンダにロックインされないような方策を考えながら,クラウドを上手に使って欲しい。

パネルディスカッション実施中のZoom画面 上段:栗田氏(左⁠⁠,溝口(中⁠⁠,梶山氏(右⁠⁠,下段:高塚氏(中⁠⁠,才所氏(右)

パネルディスカッション実施中のZoom画面 上段:栗田氏(左),溝口(中),梶山氏(右),下段:高塚氏(中),才所氏(右)

発表資料と講演ビデオ

今回のOSSデータベーストラックでの発表スライドと録画したビデオは,一部を除き公開しています。上記で紹介した基調講演とパネルディスカッションの他,SRA OSS, Inc. 高塚遥さんによる「PostgreSQL 13 新機能解説」と,日本オラクル/MySQL Community Team 山﨑由章さんの「Always Freeを使って無料でMySQLのレプリケーション検証環境を構築しよう!」についても,同じページにリンクを設けています。

10月は「企業ITのクラウドマイグレーションとOSSの役割」

10月23日,24日に開催される「オープンソースカンファレンス2020 Online/Fall」の初日に,企画トラック「企業ITのクラウドマイグレーションとOSSの役割」を実施します。今回はOSSデータベースに加えて,レガシーシステムで使われている言語や,ID/認証系など幅の広いテーマ設定にします。プログラムは10月上旬に公開予定です。今回もセミナーとパネルディスカッションを組み合わせます。

著者プロフィール

梶山隆輔

MySQL Sales Consulting Senior Manager。

日本オラクル(株)において,MySQLのお客様環境への導入支援や製品の技術解説を担当するセールスコンサルタントチームのアジア太平洋地域リーダー。多国籍なMySQL部門にて,オーストラリア,インド,台湾などに在籍するチームメンバーを束ね,アジア太平洋地域の25以上の国や地域でのMySQL普及やビジネスの拡大をミッションとする。


溝口則行(みぞぐちのりゆき)

TIS株式会社

OSSコンソーシアム副会長,オープンソースビジネス推進協議会(OBCI)副理事長。その他,PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons),日本OSS推進フォーラムなどにも少しずつ関与。勤務先メンバに,PostgreSQL,Zabbix,Ansibleやコンテナ技術などに強みのある癖のある芸人を抱え,タレントマネージャ業が中心になりつつある。