概要
累計21万部突破の問題地図シリーズ著者のノウハウ山盛り!
「RPAを導入!」…した後の「抜け漏れ」「想定外の変更」で苦労しないために
「既存の業務をよりよく改善しよう」
「今までにない価値を提供する新しい業務を立ち上げよう」
という話が,いつの間にか「とにかく,納期優先!」「細かいことは,後で考えればいい」となって,後になって「わかりにくい,こんなもの使えるか!」「かえって手間が増えたんですけれど……」とクレームの嵐に――そんな事態を防ぐには?
累計21万部の問題地図シリーズを生み出した業務改善・オフィスコミュニケーション改善士である著者が,ハンバーガーショップの運営を例に,業務を設計するための観点を集大成。
「業務や機能の要件を抜け漏れなく洗い出すためには?」
「業務の変化をとらえて,適切に対応できるようにするには?」
「不要な業務をやめるには?」
「利用者を,意図した行動に導くには?」
「あたりまえの業務を,あたりまえに提供するには?」
「業務の付加価値を高めるには?」
「人と組織を継続的に成長させるには?」
そんなさまざまな“どうすれば”をまとめ上げました。
生産性向上の必須バイブル!
こんな方におすすめ
- 仕事の生産性を上げたい方
- 新規サービスの立ち上げ責任者
- 業務改善の担当者
著者から一言
なぜ,利用者目線に立った仕組みがなかなかできあがらないのか?
「利用者目線のサービスを提供せよ」
このフレーズ,企業・官公庁・自治体を問わず,世の中のあらゆる組織で見聞きします。新しいサービスやITシステム(以下「業務」と総称します),どうせならいいものにしたい,使う人も運営する人もラクになるようにしたい――だれもがそう思うでしょう。
ところが,言うは易く,行うは難し。利用者目線の立場に立った仕組みはなかなかできあがらない。気がつけば,新しい業務を立ち上げることだけが目的化する。
「とにかく,納期優先! 立ち上げることに専念しろ」
「細かいことは,後で考えればいい」
「運用でカバーしろ!」
最初の思いはどこへやら。企画,設計,開発の現場は,立ち上げに向けて戦々恐々。時に遅延を繰り返し,ようやく立ち上がった新しい業務。いざ,蓋を開けて見ると……
「わかりにくい! こんなもの使えるか」
「かえって手間が増えたんですけれど……」
「運用でカバー,って……どうにもなりません!」
現場は阿鼻叫喚。振り回される利用者。自分は何も悪くないのに,他人が作った業務に文句を言われてストレスを溜めるオペレーション担当者,ヘルプデスクのスタッフ。だれも幸せになりません。時には……
「え,そんなサービスあったんですか?(知らなかった……)」
こんな切ない反応を,顧客や利用者から受けることも。これでは,立ち上げに使った時間もお金も報われません。
残念ながら,日本では実運用の考慮不足による悲しい業務が性懲りもなく生まれ続けています。具体例を見てみましょう。
ケース1:マイナンバー制度
国民1人1人に固有の個人識別番号(マイナンバー)を割り当て,所得,年金,納税などの情報をその番号にひもづけて,一元管理できるようにした制度。行政の業務効率化,国民の利便性向上を謳い,総務省が推進している制度ですが,残念ながら混乱が目立っています。
- 個人が事業者から支払いを受ける場合,マイナンバー情報(番号)とあわせて,マイナンバーカード(またはマイナンバー通知カードおよび身分証明書)の写しを事業者へ提出(郵送などで)することが求められる
- 「マイナンバー」「マイナンバー通知カード」「マイナンバーカード」の違いが国民に認知されていない
- その結果,行政機関へのクレームや問い合わせも絶えない
このような運用上の問題が顕在化しました。運転免許証の写しなどの個人情報を「紙」や「電子」で蒔く運用を問題視する声も。
「結局,個人情報を漏らす出口が1つ増えただけ」
「なんでマイナンバーを使うたびに免許証とか住民票とか本人確認ができる書類のコピーを添付しないといけないの? バカなの?」
Twitterでは,こんな嘆きの呟きが飛び交っています。
「お金にならない,仕事のための仕事が増えた。働き方改革を阻害していると思う」
「電子化してラクにする仕組みのはずなのに,わざわざマイナンバー通知カードと運転免許証のコピーをとって,書留で送れとか,時代に逆行しています」
ごもっともと言わざるをえない,数々の厳しい指摘。
「マイナンバーカード」のデリバリー面での課題も浮き彫りになりました。マイナンバーカードを受け取るには,本人は自治体の窓口に受け取りに出向かなければなりません。その手間がネックになっているのか,交付が進まないといいます。また,そもそもマイナンバーカードを申請しない人も少なくありません。2017年8月現在,マイナンバーカードの普及率は人口比で9.6%,交付枚数は約1,200枚。定着への道のりは遠そうです。
マイナンバー制度を否定しているわけではありません。制度そのものの発想はいい。同様の制度(国民ID制度)で,エストニアでは行政業務も国民の手続きも大幅にスリム化できたと国民からも好評。業務のデザイン,運用のやり方次第で,利用者も運用者も幸せにする仕組みになりえるのです。
本来,行政業務と国民の手続きをラクにするはずだったマイナンバー制度。
- 実運用(情報提出,カードのデリバリーなど)の考慮不足,配慮不足
- 実運用の「丸投げ」(=企業や行政機関に)
これらの弱さが露呈したケースであると考えられます。
運用の考慮不足による悲しき景色は,私たちが日常で利用する,身近な商用サービスでも散見されます。
ケース2:ポイントカード
百貨店,量販店,ドラッグストア,宿泊施設などのポイントカード。購入や利用の都度付与されるポイントを溜めると,さまざまな会員特典を利用できたりと,利用者にとって何かとありがたい仕組み。ところが,こんなケースも……。
「結婚して姓が変わった。会員情報の姓を変更したいとサービスデスクに言ったら,それはできないと言われた。新規にユーザーIDが発行され,ポイントカードも新規作成するしかない。これまでの利用ポイントも利用履歴情報もすべてリセットされるとのこと。納得いかない!」
利用者情報の変更を想定したサービス設計がされていない典型事例です。
この手の悲劇,ITを扱う職種に限った話ではありません。非ITの現場でも,運用考慮漏れによるトラブルは日々発生しています。
ケース3:新規開店のうどん屋
郊外の県道沿いに開店することになった,新しいうどん専門店。オーナーは,食材にも,料理人の人選にもこだわり,かつ立地も店がまえも申し分ない。開店に先立ち,スタッフの教育も十分すぎるくらい入念におこなった。最高の状態でお客さんをお迎えできる……はずだった。ところが。
- 駐車場待ちの長蛇のクルマの列。県道が渋滞し,住民からクレームの電話が鳴り止まない
- 店の入口にも待ち客の長蛇の列。「いつまで待たせるの?」とお客さんから聞かれるも,スタッフは答えられない
- 品切れ続出。2時間待たせたお客さんが「品切れ」を告げられ,クレームに
想定外の事象,マニュアル外の事象に,スタッフもオーナーもあたふたするしかない。とんだ開店初日でした。
いかがでしょう? これらの悲しい景色,意図して生まれたわけではありません。多くの場合,悪気なく「意識の抜け」「検討漏れ」が発生し,その結果,運用で火を噴いてしまうのです。
「業務デザイン」を言語化する
これらの悲劇を未然に防止するにはどうすればいいか? その解決策が「業務デザイン」の発想です。本書では7章構成で,業務をデザインするための観点を散りばめました。業務デザインを仕事として,職種として定義します。
第1章 「何を」「どのように」提供するか決める
~業務設計/システム設計
第2章 業務のおはようからおやすみまでを想定する
~ライフサイクルマネジメント
第3章 ステークホルダーを巻き込む
~コミュニケーション設計
第4章 あたりまえの業務を,あたりまえに提供できるようにする
~オペレーションマネジメント
第5章 業務の価値を高める
~付加価値向上
第6章 人と組織を継続的に成長させる
~環境セットアップ/風土醸成
第7章 「で,どうやったらなれる?」
~業務デザイナーとしてのキャリア/スキル
第1章~第4章では,新たに業務を立ち上げる時(あるいは既存の業務の変更を検討する時)に意識してほしい観点・視点・発想・ノウハウを提示します。いわば,業務を健全に立ち上げて,健全に回り続けるようにするための“あたりまえ”ゾーンです。
第5章と第6章は“価値向上”ゾーン。「立ち上げた(変更した)業務の価値をより高めるにはどうしたらいいか?」「あなたの組織と人材のプレゼンスを上げるには?」「メンバーのモチベーションを維持するには?」といったノウハウ共有,情報発信,育成,風土醸成に踏み込みます。
第7章は,業務デザインができる人材,すなわち業務デザイナーを目指すために求められる行動や意識・スキルは何かを,今ある職種別で考えます。
センスのある個人に頼らず,計画的に価値を提供できる組織へ
業務デザインは,いままで言語化されてきませんでした。現場の改善は,いわば奇特な個人のボランティア精神に頼っていた状態。仕事として認識もされず,ゆえに人材育成もされにくかった分野。本書は,そこにメスを入れます。
もちろん,これが完璧などとは考えていません。組織風土や職種の実態によって,「これが足りない」「ここはしっくり来ない」のような各論はあるでしょう。あって当然です。ただし,何もない状態から議論するのと,何らかのたたき台があって議論するのとでは雲泥の差。たたき台がなければ,人による意識や景色の違いも「見える化」しません。フレームワークを使う価値はそこにあります。ぜひ,本書をフレームワークにして,あなたの職場で差分を議論して補っていただけたら幸いです。
世の中の環境も課題も,日に日に複雑化してきています。いままで,運用の現場の気合と根性でナントカできてきたかもしれない。しかし,これからはそうはいかないでしょう。人の気合と根性と創意工夫とボランティア精神に甘え続けている体制は脆弱です。
加えて,少子高齢化による労働力不足の時代。仕事として認めてもらえない仕事,適切な対価が払われない職種は,いよいよなり手が減るでしょう。そうなったとき,まっさきにほころびが出るのは,業務デザインのような,今まで言語化されにくかった業務領域,価値が認識されにくかった領域にまちがいありません。
日本では長年,業務デザインの良し悪しを,偶然の経験やスキルをもった個人に委ねてきました。センスのある人がたまたまいればうまくいくし,いなければトラブルだらけの地獄絵図。偶発性に依存する組織は脆弱です。偶然を必然に。計画的に人と組織を育成し,価値ある業務を提供できる組織へメタモルフォーゼ! さっそく,次の1ページから始めましょう。
本書の読み方
本書では,話をわかりやすくするために,以下のストーリーを前提に各章の解説を進めます。
あなたは,新たに開店するハンバーガーショップの店長を務めることになりました。
場所は,鳥居市。東京・品川駅から特急列車で1時間半ほど。複数の大企業の事業所と国立大学のキャンパスがある地方都市で,お店は駅前通りに面した便利な立地です。
オーナーは「健康的で,明るく楽しく食事ができる」お店を作りたいと考えています。なお,すでにお店の外装と内装は決まっており,着工済み。変更はできません。
オーナーの意向を汲みつつ,開店に向けて準備を進めましょう。
いまこの本を手に取っているあなたは,新規業務を立ち上げる立場ではないかもしれません。そうであっても,いま運営している既存業務の弱い部分や強化したい部分を発見するために,本書で紹介する観点やノウハウはまちがいなく役に立ちます。
あるいは,今後の業務変更に備えて,たとえば第2章だけをお読みいただくのもいいかもしれません。ご自分の業務の実態やお悩みにあわせて,つまみ食いしていただければ幸いです。
業務は生き物です。どんな業務も,内部環境や外部環境の変化にあわせて変えなければなりません。生まれたときは効率的だった業務も,時を経て,いまではむしろ人の効率を下げる厄介者に変わっているかもしれません(いわゆる「形骸化」「陳腐化」した状態です)。あなたの業務の価値を維持向上させるためにも,この本に書かれた観点で業務をアップデートしていただければと思います。