概要
先延ばし,マウント,おせっかい……同僚・上司・部下のやっかいなふるまいには理由があった?!
進化心理学,認知行動論の第一人者が,仕事でつきあう人の“あるある”を25属に体系化,心理や行動のナゾを解き明かすとともに,本人とまわりがどう対策していけばいいかを教えます。
『職場の問題地図』でおなじみの白井匠さんのイラストとともに,人間関係のモヤモヤがスッキリ!
こんな方におすすめ
著者から一言
最近,『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)という書籍が話題になりました。この「いきもの」は動物のことで,「ヤギは紙を出されるとつい食べてしまいおなかをこわす」(続編38ページ)とあり,「ヤギって頭悪くてざんねんだね」と笑えるかもしれません。しかし,「いきもの」を人間だと思えば,笑ってはいられません。「甘いケーキを出されるとつい食べてしまいメタボになる」というように,人間もヤギと大差ないのです。
動物と同じように「ざんねんな人間」が,私たちの職場によく見られます。動物のことを笑ってばかりいないで,周囲に目をこらしてみてください。そして,私たち自身のことを反省し,人間の行動や心理を理解できれば,職場環境も改善できるはずです。本書は,そうした理想を目指して編まれました。
本書は「〇〇属」という形で,ほとんどの人が多かれ少なかれもっている特性ごとに,ざんねんな人間を分類しています。すなわち,どこかのだれかのことではなく,あなた自身のことでもあるのです。たとえば「サイコ属」は問題を抱えたサイコパスと呼ばれる人々を念頭に書かれていますが,「サイコパス的な傾向性」と考えれば,多くの人々に当てはまります。サイコパスとはどのような特徴であり,どのような短所や長所があるのか。そして,その特徴を大きく持ち合わせた周囲の人々,さらには自分自身とどうつきあっていくか。本書は,そうした知恵を身につけるガイドブックになっています。
私の専門は「認知科学」といって,人工知能や脳科学の研究成果にもとづいて人間の行動や心理を解明する分野です。この分野では,1990年代から生物学が導入されるようになり,その成果は心理学に展開して「進化心理学」へと,経済学に展開して「行動経済学」へと発展しています。人間は,チンパンジーやネコと同様,哺乳類の一種であり,それらと遺伝情報は9割以上が同一で,脳の基本構造もいっしょです。ですから,人間をほかの動物と比較して類似点や相違点を分析すると,人間の行動や心理をよりよく理解できるのです。
たとえば,ヤギは木を分解して栄養にできるので,木から作られた紙を好むのですが,私たちが使っている紙にはインクや塗料が混じっています。そうした現代の事情がわからないので,勧められるままに紙を食べ,おなかをこわしてしまうのです。同様に,私たちが甘いケーキに目がないのは,栄養分が不足していた先史時代に培った「甘いものがあったら,なるべくたくさん食べて,皮下脂肪を蓄えよ」という遺伝子の指令があるからです。今では蓄えなくてもいいほどの食料が提供されていますが,その事情を頭でわかっていても,体は思うようにならないのです。まさに,私たちは文明の時代に体が適応していない「ざんねんな人間」なのです。
本書によって,みなさんが「ざんねんな人間」をのりこえて職場で活躍できることを,そして,多くの企業で多様な人々がともに生きる職場環境が実現されることを願っています。