第1回の図1を参照ください。
コアメンバーミーティング
佐藤さん:「先日、業務プロセスを一通り、洗い出すということを業務改善の最初のステップとして…と言われましたが、僕にはどうしても現場が協力してくれるようには思えないんです」
赤西さん:「製造部長が曲者ですしね…」
広瀬さん:「また、そんなこと言う~。そんなこと言っていたら、何も始まらないじゃないの。男でしょ!もっとシャキッとしなきゃ結婚できないわよ!」
赤西さん:「美香に言われたくないけどね(-_-メ)」
広瀬さん:「何ですって?(`´)」
村瀬部長:「また、お前らは仲がいいんだか悪いんだか。話を脱線させるな(笑)!」
加藤さん:「でさぁ、佐藤としてはどうしたいの?」
佐藤さん:「それは、昔のように活き活きとした職場で、部門の壁もなく、当社と当社の製品に誇りを持てるようにしたいし、今の現場の連中のだらけた様子には我慢ならない」
加藤さん:「その気持ちはみんな一緒だろ、だから、こうして集まっているんだから」
W女史:「みんながそういう気持ちをまずは持っているということが大事ですよ♪」
S氏:「前回、僕らからの提案として、自分たちの開発部門から製品出荷までの業務プロセスを一通り、洗い出してみると話しましたが、まずは、これから始めませんか?」
W女史:「洗い出した業務プロセスを業務フローにして、それを他の部門に見てもらえれば、部門間の関係性、業務も相互影響度、無駄やトラブルの発生箇所などを見れば、否応なく自分たちも関係しているんだってわかってもらえますよ」
佐藤さん:「うーん…理屈上はわかるのですが」
加藤さん:「社長に直訴するくらいのお前が、何、弱気なこと言ってるんだよ。まずはやってみよう!」
S氏:「では、最初に組織図、業務分掌、組織規程、内部統制やISO9001の業務フロー、人事評価制度の基準書や目標設定、それと、これまでに業務の棚卸をしたことがあれば、棚卸表などを見せてください」
加藤さん:「え…!? そんなものが関係あるんですか?」
S氏・W女史:「もちろん!」
組織と業務範囲
業務プロセスは仕事の流れであり、仕事は各部門に割り当てられています。企業組織であれば、ごく普通の姿です。そして、社員一人ひとりは企業に属しながら、所属する部門の中で、部門が行うべき業務の「ある部分」を受け持っているに過ぎません。
通常は組織の持つ機能と、業務プロセスは同じです。ピンとこないかもしれないので、別の言い方をすれば、「営業部門に開発プロセスはない」ということです。開発プロセスであれば、開発プロセスは開発部門にあるわけです。
そんなの当たり前の話でしょう!と思う人もいるでしょうが、読者の皆さんの周りで、「製品企画はマーケティング部があるにもかかわらず、開発部が製品企画も行っている。それもAさんだけ」とか、「開発部が試作機を作っている、製作部じゃないの?」とか、組織名称と実際に行っている仕事に疑問符がついた経験はありませんか?
先の資料をもとに、GHテクノロジーズの業務プロセスと、各部門の業務範囲を描いてみると図1のようになっていることがわかりました。
仕事の責任範囲
赤西さん:「あれ? 試作って開発の仕事なんですか? 製造の仕事とダブってません?」
佐藤さん:「何言ってんの。図面は僕ら、開発が設計図面は描くけど、だいたいが納期に追われているから、バラック[1]のまま製造から試作機を引き上げてくるじゃん」
*1:ハードウェア開発の場合、ボードや配線がむき出しの状態を言う。
赤西さん:「そっか…でも、なんでですか?」
村瀬部長:「それは僕が入ったときからそうだけど、試作機は性能出しなどの調整が必要で、完全な製品にしてしまうといちいち筐体を開けないといけないので、量産前の検証も含めて、開発が試作機を作ることが多いんだよ。さほど、調整を必要としないモノは試作機は全部、製造にやってもらうけどね」
W女史:「つまり、試作は開発がすることもあれば、製造がすることもある…と言うことですね」
S氏:「では、開発部の仕事の責任の範囲はどこまでですか?」
佐藤さん:「それは、図面を出すまでなので、開発・設計までです」
赤西さん:「さっき、試作まで開発が行うって言ったじゃないですか~」
加藤さん:「待て待て…、そんなことを言ったら、僕ら知財はすごく広範囲で、特許などはどこで出てくるかわからない。だから、業務範囲はすごく広いし、そもそもプロセスで特定することは難しい」
広瀬さん:「そうよねぇ、赤西君、わかったぁ?」
赤西さん:「マジ、ムカつく!」
このように、“仕事の流れ(業務プロセス)”と“組織の業務範囲”が一致するときと、一致しないことがあることをまずは頭に入れておきましょう。
とくにGHテクノロジーズの場合は、知的財産部はさておき、開発部と製造部の業務範囲が、試作時と量産時ではどうも異なるようです。同じ社内でも、認識・見解がバラバラなのに、製造プロセスの一部を海外のEMS企業に製造委託をしているので、少しややこしいことになっていることも予想されます。部門として、仕事の責任の範囲が曖昧なのか? 曖昧だと問題で明確でないといけないのか? ということを考えてみる必要がありそうです。
仕事の責任範囲と部門間の壁(セクリョナリズム)
S氏:「それと…、部門同士のセクショナリズムはどうですか? 開発部を中心に前後の工程部門で、感覚値でかまいません」
佐藤さん:「前工程って言えばいいのかな。マーケティング部とはほとんどセクショナリズムは感じないですね。たまたま、坂本課長とは大学の先輩・後輩の関係もありますけど」
赤西さん:「製造部は何かと開発部にはからみますよね」
村瀬部長:「ぶっちゃけ、ここだけの話。昔から、開発と製造って仲が悪いんだ」
赤西さん:「そんな昔から何ですか? うちは製造メーカなのに、困ったもんだ(-_-;)」
広瀬さん:「みんな仲良く仕事ができれば気持ちいいのにね~」
W女史:「他部門であっても、困ったときに誰々さんに聞けばいいとか、具体的にどのような業務があり、どんな仕事のやり方をしているのかは、わかります?」
佐藤さん:「僕はよく製造部に出向いていたので、だいたいはわかるけど、ちゃんと話せた人は皆、早期退職でいなくなっちゃったよ…。海外EMSとも文化のギャップを感じてやりにくいって言ってたしなぁ。」
S氏:「ちょっと、こんな絵を描いてみましたけど、イメージ合ってます?」
一般に、仕事の責任範囲を明確に決めすぎると、セクショナリズムは強くなりがちです。要は、「ここまでが自分の仕事、ここから先はそっちの仕事(だから自分の責任範囲ではない)」と線引きをしてしまうからです。
仕事がダブっている、似たような仕事をあちこちの部門で行っているといった無駄な部分も避けたいですが、完全に仕事が分業化されていて、業務のダブリの部分がないと危険な状態に陥ることがあります。野球を例にすれば、「ショートのポジションがいなかったらどうなるのか?」なのですが、「セカンドが捕球すると思っていた」「今のはサードだろ、もっと動けよ」なんてことになったら、困りますよね。ショートという、ある意味、中途半端な場所にいる人が、捕球範囲を明確に定めず自由に動くからこそ、チームプレーが成り立っているわけです。
企業組織でも同じで、ダブリのような“業務ののりしろ”部分は必要です。どちらかの部門がお互いに、「相手がやるものだと思っていた(やっていなかった)」では通用しません。むしろ、どちらの部門でも対応できるほうが望ましいでしょう。このとき、お互いの業務を知っていないとできないことは言うまでもありません。
余談ですが、筆者の経験値ですが、開発部門とマーケティング部門の仲が良い企業と、悪い企業は半々くらいかなと思っています。マーケ部門に開発出身者が多いと関係性は比較的○、物理的にマーケ部門だけ本社や海外にあるなど開発部門と離れている、営業系が多いマーケ部門の場合はどちらかと言うと関係性は△から×が多いようです。これも感覚値なので、正確なものではないですが…。
品質に影響を与える要素
さて、セクショナリズムがまったくないという組織はないでしょう。多かれ少なかれ利害関係は存在するものです。
業務の効率化、機能的に無駄のない組織にすればするほど、業務のダブリ(のりしろ)の部分がなくなり、縦割り構造が進みます。一見、効率が良いように見えて、ドロドロした「責任のなすり合い」が常態化している、「余計なことには関与しない」 「自分たちのことだけやればいい」ことを招いてしまう原因です。
ダブリ(のりしろ)が多すぎるとムダ、少なすぎたりまったくないと「誰もボールを拾わない状態に陥る」。
このバランスをどこで・どう取るかがポイントです。オペレーションの“品質”の側面で考えるとダブリはあったほうがいい、効率重視で“コスト”や“納期”の側面で考えるとダブリはあってはダメです。
GHテクノロジーズが何を重視した改善にするか、かけられるリソースも勘案しながら、このあたりはじっくりと考える必要があります。
次回は、仕事のインプット・アウトプットと、コミュニケーションの場づくりについてお話します。
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