OSSデータベース取り取り時報

第113回MySQLとPostgreSQLの2024年重大ニュース⁠PostgreSQL Conference Japan情報

あけましておめでとうございます。この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。この連載は、今年2025年の夏に満10歳を迎えます。2025年もOSSデータベース取り取り時報をよろしくお願いいたします。

なぜそのOSSデータベースをプロダクトに組み込んだのか@OSC大阪

1月25日(土曜日)に大阪で開催されるオープンソースカンファレンス2025 Osakaにて、OSSコンソーシアムではOSSデータベースをテーマにしたセミナーを実施します。

オープンソースのDBMSは、カスタムアプリ(企業の業務アプリなど)のミドルウェアとして採用されるだけでなく、他のOSSアプリケーションのコンポーネントとして使われるケースもあります。OSSアプリケーションにDBMSを組み込んだ事例を取り上げて、それを選択した理由やメリットなどについて、パネル討論風に語っていただこうと計画しています。主にシラサギ(CMS/グループウェア)プリザンター(ノーコードツール)の話を伺いつつ、可能な範囲でその他のケースについても登壇者と一緒に考えます。

タイトル OSSデータベースを組み込んだプロダクトの事例 ~ なぜそれを選んだ?
日時 2025年1月25日(土)13:00~13:45
会場 大阪産業創造館(大阪市中央区)
登壇メンバー(予定) OSC2025大阪登壇者

また、このOSSコンソーシアムのセミナー枠の後、日本OSS推進フォーラムによるOSS鳥瞰図の紹介と、オープンソースソフトウェア協会の公開ミーティングが続きます。

[MySQL]2024年の重大ニュースと2024年12月の主な出来事

MySQLの2024年の重大ニュースをピックアップしてみました。なお12月のMySQLのバージョンアップはありませんでした。

2024年MySQL重大ニュース

2024年のMySQLのニュースとして最も重要なものは、仕様変更や機能追加などを行わず、バグ修正のみをメジャーリリースから8年にわたって提供するLTS(Long-term Support)のリリースです。ほかにもいくつかニュースを取り上げてみました。

1 MySQL 8.4がLTSリリースとして提供開始
この連載の第92回でご紹介したMySQLの新しいリリースモデルのうちの、最初のLong-Term Support(LTS)リリースとなるMySQL 8.4.0が4月30日にリリースされました。
MySQL 8.0ではマイナーバージョンアップでも積極的に新機能を取り込み、また設定のデフォルト値などの変更を行ってきました。新しい機能をいち早く利用できる一方で、仕様の変更によるアプリケーションの挙動の変化や対応が課題となりました。そこでMySQL 8.4 LTSは仕様の変更を最小限に抑え、長期間にわたって安定的にアプリケーションを運用できることを目指したバージョンと位置づけられました。
2 MySQL 9.0がイノベーション・リリースとして登場
MySQL 8.4 LTSが安定を志向するリリースである一方、MySQL 9.0は新機能を次々と追加していくリリースとして位置づけられています。バグ修正を除いて基本的には3ヶ月ごとに次のイノベーション・リリースが投入され、それまでのバージョンはサポート終了となります。具体的には2024年7月に9.0がリリースされ、10月に9.1がリリースされた段階で9.0は終了となっています。イノベーション・リリースでの改良点や変更点を蓄積して次のLTSリリースにつながっていきます。
3 LLMを内蔵したHeatWave GenAI
MySQLのクラウド版であるHeatWaveにLLMを内蔵して、データベース内やオブジェクト・ストレージのデータを生成AIの対象データとできるHeatWave GenAIがリリースされました。イン・データベースLLMとよばれる内蔵のLLMの利用には費用はかからず、またデータを他のデータストアに移動する必要がないため、セキュリティ面でもメリットがあります。
イン・データベースLLMよりも高い実効性能や精度が求められる場合には、外部LLMとしてOCIの生成AIサービスを利用できるようになっています。またAWS版のHeatWaveであるHeatWave on AWSでもHeatWave GenAIが利用できます。
4 MySQLでのベクトル・ストアのサポート
MySQL 9.0の新機能の1つではあるものの、アプリケーション開発の観点からも重要なのが、VECTORデータ型のサポートです。MySQLサーバーのテーブルのデータや、HeatWave LakehouseでHeatWaveクラスターにロードするオブジェクト・ストレージ上のデータからベクトル埋め込みを生成して格納できます。⁠原稿執筆現在では)HeatWaveにはベクトルの距離を演算する関数が提供されており、SQL文でのセマンティック検索を実現できます。
5 MySQL Shell for VS Codeの正式リリース
MySQLのGUIクライアントとして提供されているVS Codeの拡張機能、MySQL Shell for VS Codeが正式リリースとなりました。2022年3月のプレビュー・リリースの公開以降、機能の強化やバグ修正を続けていたものがようやく正式リリースとなっています。MySQL Workbenchが持っていた機能の一部を実装し、HeatWave LakehouseやHeatWave GenAIを初めとするHeatWaveのための機能も用意されているGUIクライアントとなっています。
6 アプリやツールのMySQL対応
特にOracle DatabaseのGUIツールとしてデベロッパーが利用することが多いデータベース開発ツールのSI Object Browserが、MySQLにも対応しました。これまでOracle以外にもEDB Postgres, Microsoft SQL Server, HiRDBには対応していましたが、MySQLおよびHeatWave MySQLにも対応した形です。MySQL 9.0イノベーション・リリースにも対応済みです。
オープンソースカンファレンス2025 Osakaのパネルディスカッションでも代表取締役の内田さんが登壇される、株式会社インプリムのオープンソースのノーコード・ローコード開発ツール⁠プリザンター⁠も、これまでのMicrosoft SQL ServerとPostgreSQL対応に加えて、10月からMySQLにも対応しています。

[PostgreSQL]2024年の重大ニュースと2024年12月の主な出来事

PostgreSQLでも2024年の重大ニュースをピックアップしてみました。また、12月に開催されたPostgreSQL Conference Japan 2024の報告と、劔⁠Tsurugi⁠の事例発表をお伝えします。

2024年PostgreSQL重大ニュース

PostgreSQLに関連したニュースの中から2024年を特徴付けるものをピックアップしてみました。また、今回も雑談に使えそうなおまけ情報を番外に加えました。

1 ⁠Tsurugi⁠が正式にリリースし、超低遅延AIへの適用事例も登場
この連載で随時状況をお伝えしていましたが、OSSとして開発されている次世代の超高速RDBエンジンである劔⁠Tsurugi⁠が、8月末にベータ版を脱して正式版がリリースされました。同時にサポートサービスの提供も開始されています。これにより、この爆速のDBエンジンを実運用に適用し始める準備が整いました。
そして12月には、劔⁠Tsurugi⁠を使った超低遅延AI環境で走行中のレースカーのの車載データをリアルタイム処理する事例が発表されました。この事例発表は最新のホットニュースなので、後述のセクションで取り上げます。
⁠Tsurugi⁠はまったく新しいDBエンジンであって正確にはPostgreSQLではありません。しかし、PostgreSQLと互換のインタフェースも持っていることから、PostgreSQLコミュニティからも注目と期待を集めています。2024年の最重要ニュースにする価値があるものです。
2 PostgreSQLが「DBMS of the Year 2023」を受賞
年始の1月2日、OSS・商用を問わずにあらゆるDBエンジン(DBMS)のランキングを毎月発表しているdb-engines.comによる、いわば年間大賞である「DBMS of the Year 2023」にPostgreSQLが選定されたことが発表されました。発表記事によれば、受賞につながった成功要因は「最前線のDBMSテクノロジを維持しながら同時に信頼性が高く安定したプラットフォームを提供」と記されています。信頼性と安定性というここ数年間のPostgreSQLの特徴が表れていると感じます。
2023年分の受賞ですが、発表は2024年に入ってからでしたので今回の重大ニュースに含めました。
3 新メジャーバージョン17リリース
9月26日に新メジャーバージョンPostgreSQL 17がついにリリースしました。PostgreSQLのメジャーバージョンのリリースは、定期的に秋にリリースされるスケジュールが公表されており、きっちりとそのスケジュールが守られています。そのため新メジャーバージョンが予定通りにリリースされたことのニュース性は高くはありません。けれど、マイナーバージョンとは異なり、メジャーバージョンは新機能のお披露目となるので、注目度は高く、この連載でもベータ版の段階から数回に渡ってお伝えしました。
4 PostgreSQLも生成AI対応
2024年も引き続き、IT業界はどの分野でも生成AI・大規模言語モデル(LLM)の話題で大盛り上がりでした。それはデータベースの分野も例外ではありませんでした。各社から生成AIやLLMに対応したというニュースが頻繁に流れた一年でした。それらを全てキャッチしているわけではありませんが、目に付いたもの、記憶に残っているものをいくつか列挙してみます。
5 PostgreSQLがCVE(Common Vulnerabilities and Exposures)の採番機関に
1月18日、PostgreSQLがCVE(Common Vulnerabilities and Exposures)の採番機関(CNA:CVE Numbering Authority)となったことが発表されました。これにより独自のCVE番号を割り当て、PostgreSQLやPostgreSQLと密接に関連するプロジェクトのCVE情報を公開できるようになりました。
番外 ゾウの赤ちゃんが無事に誕生することを願うクラウドファンディングが実施中
PostgreSQLのマスコットキャラクターSlonikにちなみ、番外としてゾウの赤ちゃん誕生のニュースを探してみましたが、2024年に誕生したというニュースは見つかりませんでした。代わりに2025年中にも赤ちゃんが誕生するかもしれないという話が見つかりました。広島市安佐動物公園で、マルミミゾウの母ゾウ「メイ」と子ゾウの出産・子育てを支えるクラウドファンディングが呼びかけられています(2025年1月24日(金)まで⁠⁠。

EXPLAINを説明する「Explain EXPLAIN」(PostgreSQL Conference Japan 2024から)

12月6日に、日本PostgreSQLユーザ会(JPUG)主催の恒例イベント、PostgreSQL Conference Japan 2024が開催されました。午前の基調講演から始まり、午後は複数トラックに分かれて多数の講演発表が行われました。

その中から、チュートリアルセッションのひとつで講演資料が一般公開されている「Explain EXPLAIN:EXPLAIN を使ったPostgreSQLのクエリ最適化の基本と実践」を紹介します。

これは午後最初のセッションで、pganalyze織田敬子さんの明るい声の響く楽しいチュートリアルでした。テーマであるEXPLAINとPlannerの説明、そしてその前提となるクエリ実行の基本についても織り込まれてサービス精神旺盛な盛りだくさんの内容でした。チュートリアルの目標は、EXPLAINとPlannerの基本、そして、クエリを最適化するためのサイクルを理解することです。後半にはクエリが遅くなるパターンとその改善方法をいくつか例示して解説される予定だった様ですが、これについては時間に収まりきらずに概要だけとなりました。ただ、⁠基本を抑えていれば改善方法は理解できるので、基本の理解が必ず必要です。今日はその基本部分については理解できたのではないでしょうか」と講演を締めくくられました。

当初目標のひとつに「Plannerの気持ちがちょっとわかるようになる」を挙げておられましたが、50分の講演ではこれにはちょっと届かなかったかもしれません。けれど、講演テキストには参考情報なども付いていて、イベントのプログラムページから参照できます。当日に聴講された方は復習として、聴講できなかった方にも自習テキストとして有益な情報源になるでしょう。

PostgreSQL Conference Japan 2024での織田さんの発表の様子
pganalyse織田敬子さん@PGconf

劔“Tsurugi”による超低遅延AIでレースカーの車載データをリアルタイム処理

2024年の重大ニュースでも取り上げた様に劔⁠Tsurugi⁠の正式版がリリースされ、これまで実現できなかったことへの挑戦が様々な分野で始まっているという話を関係者から聞いています。

今回発表されたのは、鈴鹿サーキットでのレース中に、走行するスーパーフォーミュラのレースカーの車載データ(以下、テレメトリデータ)を取得して、AIを用いてラップタイムやレース順位をリアルタイムで予測することに成功したというものです。

IoTデバイス(レースカー)で発生する大量のテレメトリデータを、AIを使ってリアルタイムに処理が可能な、信頼性のあるデータストアとして劔⁠Tsurugi⁠が使われています。劔⁠Tsurugi⁠を使うことで、一貫性を担保しつつ、データ更新を含めて超高速データ処理が実現できています。

2025年1月以降開催予定のセミナーやイベント⁠ユーザ会の活動

イベントごとに利便性のあるオンライン開催や、従来通りのオンサイト(会場)開催、またはハイブリットが混在するようになっています。興味を持たれて参加したいイベントの開催形態にご注意ください。

MySQL開発元が提供するクラウド⁠データベース HeatWave MySQL

日程 2025年1月8日(水)16:00~17:00
場所 オンラインセミナー(Zoom)
内容 HeatWaveはオラクルが提供する分散並列型のインメモリ・データベースにベクトル・ストア、機械学習やLLM(大規模言語モデル)を統合したクラウド・サービスです。
このセミナーでは、MySQLサーバーのクラウド版としてのHeatWave MySQLの機能や技術的特徴などをご紹介します。HeatWave MySQLでは、MySQL 9.0で追加されたベクトル・データ型や、JavaScriptで開発できるストアド・プロシージャを含む最新機能が利用可能になっています。またHeatWaveクラスターを追加することで、分析系の処理の高速化だけではなく、HeatWave AutoPilotによる運用に関する処理の自動化や運用作業の省力化も可能になります。
主催 日本オラクル株式会社

Oracle Code Night: HeatWave GenAIできるあんなことやこんなこと

日程 2025年1月16日(木)19:00~20:30
場所 オンラインセミナー(Zoom)
内容 Oracle Code Nightはオラクルのテクノロジーだけに限定しない、Developer(開発者)のDeveloper(開発者)によるDeveloper(開発者)のための開発者向けコミュニティMeetupセミナーのこと。
HeatWave Developer'sセミナーではHeatWaveのベクトル・ストアやHeatWave GenAIでできることをいくつか試してみたので、ご紹介したいと思います。
主催 日本オラクル セミナー事務局

AIと機械学習の融合: HeatWave GenAIとHeatWave AutoMLがもたらすデータ活用の進化

日程 2025年1月22日(水)16:00~17:00
場所 オンラインセミナー(Zoom)
内容 このウェビナーでは、HeatWave GenAIとHeatWave AutoMLがAIと機械学習を統合することで、データ活用における新たな地平を開く方法を発見します。
HeatWave GenAIが提供する大規模な言語モデルとコンテキストを理解した会話機能、およびHeatWave AutoMLによる機械学習パイプラインの自動化が、どのようにしてデータ駆動型の意思決定を強化し、ビジネスに革命をもたらすかについて掘り下げていきます。[1]
主催 日本オラクル株式会社

オープンソースカンファレンス 2025 Osaka

日程 2025年1月25日(土)10:00~17:45(展示は16:00まで)
場所 大阪産業創造館(大阪市中央区)
内容 この大阪でのオープンソースカンファレンスは、セミナーと展示の両方が会場で開催されます。この記事の本文でもお知らせしたとおり、OSSコンソーシアムも協賛出展をしてセミナー「OSSデータベースを組み込んだプロダクトの事例 ~ なぜそれを選んだ?」を実施します。
12月下旬にプログラムが公開されており、上記以外にもMySQL Community Teamや他のデータベースやデータ処理基盤に関するセミナーが予定されています。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

HeatWave MySQLへのオンプレミスやクラウドのMySQL系データベースからの移行のメリットとポイント

日程 2025年1月29日(水)16:00~17:00
場所 オンラインセミナー(Zoom)
内容 HeatWave MySQLはMySQLの開発チームが構築、管理、およびサポートを行っているフル・マネージドのデータベース・サービスです。性能拡張性の向上やセキュリティ強化のためのプラグインを提供するMySQL Enterprise Editionで構築された唯一のMySQLクラウド・サービスです。さらに機械学習エンジンやベクトル・ストア、LLM(大規模言語モデル)を内蔵し、トランザクション処理からデータ分析、機械学習処理や生成AIの活用を、1つのプラットフォームで実現可能としています。
このセミナーでは、HeatWave MySQLへの移行に必要な準備や作業を解説し、お客様環境の移行をよりスムーズに進めていただくことを目的としています。オンプレミスのMySQLやフォーク製品、またはAmazon RDS for MySQLやAmazon Aurora for MySQLなど各種のクラウド環境のMySQL系データベース・サービスからOCIのMySQLデータベースに移行することによるメリットも解説します。
主催 日本オラクル株式会社

Oracle CloudWorld Tour Tokyo

日程 2025年2月13日(木)
場所 ザ・プリンス パークタワー東京
内容 Oracle CloudWorld Tourでは、AIを活用したビジネス価値の最大化方法、最新のクラウド技術、そして自動化による生産性・効率性の向上について学ぶことができます。Oracle Cloud AIサービスやインフラ、アプリケーション、データベース、開発者向けツールを駆使して、さまざまな業界での複雑なビジネス課題を解決しているエキスパートたちから、実践的な知識を直接学ぶことができます。
HeatWaveのセッションではHeatWave MySQLを利用されているお客様の導入事例もご紹介予定です。

オープンソースカンファレンス 2025 Tokyo/Spring

日程 2025年2月21日(金)10:00~18:00(展示:11:00~17:30)
2月22日(土)10:00~17:30(展示:10:00~16:00)
場所 駒澤大学 駒沢キャンパス 種月館(3号館)(東京都世田谷区)
内容 東京地区では5年ぶりに会場にて金曜と土曜の2日間、セミナーと展示の両方のフルスペック開催になります。OSSコンソーシアムも協賛出展してセミナーを開催する予定です。詳しくは次回の第114回にてお知らせします。
カンファレンスのプログラム詳細は1月下旬に公開予定です。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

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