OSSデータベース取り取り時報

第77回2021年北東アジアOSS貢献者賞と、MySQL & PostgreSQLの2021年の主なニュース

この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。

12月に開催された、日本・中国・韓国による北東アジアOSS 推進フォーラムで「2021年 北東アジア OSS貢献者賞」が発表されました。詳しくは「⁠⁠PostgreSQL]2021年12月の主な出来事」のセクションで。また、今回は年初の恒例となったMySQLとPostgreSQLの年間重大ニュースをお伝えします。

[MySQL]2021年12月の主な出来事

2021年12月のMySQLの製品リリースはありませんでした。

MySQL 8.0のリファレンスマニュアルのFAQにTLS 1.0, 1.1のサポートについての追記がされました。MySQL 8.0.26で非推奨となったTLS 1.0と1.1は近日リリース予定の8.0.28にてサポート対象外になります。現在利用中のMySQLサーバーのTLSのバージョン確認方法やConnectorの対応はFAQをご覧ください。

図1 MySQLリファレンスマニュアルのセキュリティFAQより
図1 MySQLリファレンスマニュアルのセキュリティFAQ

MySQLのマネージドサービスMySQL Database Serviceでは、利用者からの要望の多かったストレージのサイズをオンラインで拡張できる改良が加わっています。最初にインスタンスを作成した場合のストレージサイズが400GB以下の場合は最大32TBまで、400GBより大きい場合は64TBまで拡張可能です。アプリケーションの処理に影響を与えることなく動的に拡張であり、同時により大きなサイズではより高いIOPSとなっているため性能の向上も期待できます。

図2 オブジェクトストレージ拡張の設定画面
図2 オブジェクトストレージ拡張の設定画面

MySQL Database Serviceのクエリ・アクセラレータであるHeatWaveにも改良が加わり、HeatWave 8.0.27-u2では、VIEWのサポートが追加になったほか、Bloom Filter(ブルーム・フィルター)が実装されました。Bloom FilterはJOIN性能の向上が期待できる仕組みです

HeatWave 8.0.27-u3では、オブジェクトストレージからのデータのリカバリ処理の高速化と再起動時の自動テータロードが利用可能になりました。HeatWaveノードのメモリ上のデータをスナップショットとしてオブジェクトストレージに保管し、ノード障害から自動的に復旧する際にオブジェクトストレージからリストアする仕組みは、機械学習を活用した運用自動化の仕組みであるAutopilotの1つとして実装済みでした。HeatWave 8.0.27-u3はデータの変更量と前回のスナップショットからの経過時間に応じて自動的にスナップショットの取得間隔を調整し、データの変更点を記録したChangelogsの量を抑えることで復旧時にログの適用で時間がかかることを避けます。オブジェクトストレージ上のスナップショットはHeatWaveノードの再起動時にもロードされ、ノード停止中のデータ変更による差分も自動的に追いつく仕組みが実装されています。

2021年MySQL重大ニュース

2021年のMySQLに関する出来事を振り返ります。MySQL 8.0では継続的に機能拡張が行われており、2021年もClusterSetが追加されるなど今後も新機能の追加にも注目です。

1 MySQL 8.0とMySQL Shell 8.0のリファレンスマニュアル日本語版公開
第69回でご紹介したとおり、コミュニティからのフィードバックを受けながらリファレンスマニュアルの日本語版が公開されました。 なおMySQL Database Serviceのドキュメントにも日本語版が用意されています。こちらは機械翻訳が定期的に行われるため、最新情報は英語版をご確認ください。
2 MySQL 5.6 EOL
2021年2月でMySQL 5.6がSustaining Supportフェーズに入り新規パッチは基本的にリリースされなくなりました。MySQL 5.6をご利用中の方は早急にバージョンアップをご検討ください。バージョンアップに関する手順や注意事項はリファレンスマニュアルに記載されているほか、2021年3月に開催されたバージョンアップに関するウェビナー資料を参照してください。
3 MySQL InnoDB ClusterSet登場
MySQL 8.0.27にて災害対策構成を簡単に実現できるMySQL InnoDB ClusterSetが追加されました。これまでもコマンドだけで非同期レプリケーションの構成を構築できるMySQL ReplicaSetや、MySQLのクラスタリング機能であるMySQL InnoDB Clusterなど、MySQLのレプリケーションを応用した各種の構成が利用可能となっており、災害時などでデータセンターに問題が発生した際にも対応できるInnoDB ClusterSetが最新の機能として追加されました。

図3 MySQL InnoDB Clusterの構成概要

図3 MySQL InnoDB Clusterの構成概要

MySQLのレプリケーション構成のパターンやInnoDB ClusterSetについては11月に開催されたdb tech showcaseでの講演資料をあわせて参照してください。
4 MySQL Database Serviceの高可用性構成の提供開始
MySQLのグループレプリケーションによる高可用性構成がMySQL Database Serviceでも利用可能となりました。OCIの可用性ドメイン(Availability Domain)が複数あるリージョンではそれぞれのADに、可用性ドメインが1つのリージョンでは物理ハードウェアや電源装置が独立したフォルト・ドメインにサーバーを分散配置することにより高い可用性を担保しています。
5 HeatWaveにAutopilot追加
MySQL Autopilotはデータベース管理者によるHeatWaveの設定や運用を自動化する機能です。自動化の裏側では機械学習による学習と予測が広く活用されており、今後もさらなる自動化できる処理が拡張されていく予定です。
6 MySQL Database ServiceおよびHeatWaveの事例
いち早くMySQL Database Service(MDS)の導入事例として公開されたのが株式会社パソナテックにてコンテンツ管理システム(CMS)のリプレイス時にAmazon RDSからOCIのMDSに移行した事例で 、大幅なコスト削減とDBへの同時接続数が増加した場合にも安定した性能を実現しています。MDSの導入は長年にわたりMySQLのパートナーとしてビジネスを展開する株式会社スマートスタイルが担当しています。
2021年11月に開催された複数のイベントにてMDSやHeatWaveの導入事例をお客様が講演されていました。
  1. トヨタ自動車株式会社でのHeatWave検証事例
  2. 株式会社りらくにおけるAWSからのHeatWaveへのマイグレーション事例
  3. 株式会社ファンコミュニケーションズにおけるMDSへのマイグレーション事例
  4. 株式会社データベーステクノロジが構築を担当した旭松食品株式会社での需給管理などのクラウド化でのMDSの導入事例
7 各種MySQL公式ブログ移設
MySQLのブログがblogs.oracle.com/mysql/に集約されました。過去のMySQLサーバー開発チームや高可用性構成開発チーム、リリース・エンジニアリング・チーム、Workbench開発チームなど各チームのブログのアーカイブはdev.mysql.com/blog-archive/にまとめられています。過去の記事へのリンクはアーカイブへリダイレクトされるよう作業を進めているところです。

2022年も引き続きMySQL Database ServiceとHeatWaveのイノベーションを軸に、コミュニティ版を含めたMySQLのさらなる機能強化が期待されます。

[PostgreSQL]2021年12月の主な出来事

PostgreSQLも2021年の重大ニュースを挙げますが、その前に、12月初めに嬉しいニュースが届きましたので、まずそちらからお伝えします。

PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアムが「2021年 北東アジア OSS貢献者賞」受賞

PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons)は、エンタープライズ領域へのPostgreSQLを普及推進する団体で、2012年4月にPostgreSQLの豊富な導入実績を持つ企業が集まって活動を開始し、2022年4月で満10年を迎えます。12月3日、このPGEConsが「2021年度北東アジアOSS推進フォーラム」において、約9年半に及ぶPostgreSQLの技術検証実施とその結果公開による継続的な普及促進活動が評価されて、「2021年 北東アジア OSS貢献者賞」を受賞しました

北東アジアOSS推進フォーラムは、日本OSS推進フォーラム、中国OSS推進連盟、韓国OSS推進フォーラムによって開催されています。この中の日本OSS推進フォーラムは、OSSを活用していく上での課題や普及促進への活動をオープンに推進して産業界全体の発展に寄与することを目的として2004年に発足した民間団体です。中国、韓国とともに北東アジアOSS 推進フォーラムを形成して国際的な活動も展開しています。

図4 2021年 北東アジア OSS貢献者賞の画面
図4 2021年 北東アジア OSS貢献者賞の画面

2021年PostgreSQL重大ニュース

昨年と同様に、重大ニュースを5つと番外編1つを、完全に筆者個人の評価で挙げています。この連載をお読みの方はご存知の方が多いと思いますが、PostgreSQLは年1回のメジャーバージョンのリリースがよていされています。新機能はその年1回のメジャーバージョンのリリース時に投入され、その他のマイナーバージョンでは新機能は基本的には入ってきません。そのため、PostgreSQLでの年間の重大ニュースは、機能の追加や改善ではなく、技術面以外のいろんなカテゴリが混在したニュースが並ぶことになります。

1 PostgreSQLを普及推進するPostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアムが「2021年北東アジアOSS貢献者賞」受賞
上述の記事でも紹介したホットニュースです。新バージョンでも新機能リリースでもありませんが、日本国内で地道に調査や検証を続けてきたコンソーシアムの活動が認められた、とても嬉しい出来事でした。
2 PostgreSQLが「DBMS of the Year 2020」
2021年の年初に、PostgreSQLが⁠DBMS of the Year 2020⁠に選ばれたニュースが入ってきました。本連載では第68回でお知らせしました。PostgreSQLは2017年と2018年にも受賞していますので、3度目の受賞となりました。また、2019年はMySQLでした。2021年の結果も気になります。OSSデータベースの連続受賞は続くのでしょうか。毎年1月初旬には前年のDBMS of the Yearが発表されていますので、この記事が公開される頃には結果が発表になっているかもしれません。
3 PostgreSQL 14登場
PostgreSQLの新メジャーバージョン14が、9月30日に正式リリースとなりました第74回⁠。本連載では正式リリース以外にも、ベータ版(ベータ1)のリリースから、最初のアップデートまで数回にわたってバージョン14に含まれる新機能や改善点をお知らせしてきました第70回第71回第73回第75回⁠。PostgreSQLは年1回、秋頃にメジャーバージョンリリースが予定されていて、最近は粛々とスケジュール通りに進捗しています。リリースが遅延したら悲報としてニュースになりますが、逆に順調にリリースされた場合のニュース性は大きくないのかもしれません。それでもPostgreSQLに関わる多くの人にとって、最大の関心事、一大イベントであることにかわりはありません。
4 PostgreSQL 9.6はサポート終了へ
11月にリリースされた9.6.24が、PostgreSQL 9.6の最後のリリースになりました。9.x系列の最後が9.6でしたので、ついに今後のサポート対象はバージョン10以降となります。バージョン9.xと共に過ごされた期間が長い方も多いと思います。時代の節目を感じます。本連載では前回の第76回でお知らせしました。
5 PostgreSQL Conference Japan 2021がオンサイト開催
会場に集うオンサイトでのイベントが実施できるのか、それとも無理なのか、ギリギリまで心配でした。幸いにも新型コロナ感染症の感染状況が落ち着いてくれた時期となり、無事にオンサイト開催が実現しました。2020年と2021年の両方でオンサイト開催ができたのは奇跡に近いように思います。このカンファレンスの報告は前回の第76回でお伝えしました。
番外編 Project Tsurugi(劔)ユーザー会 兼 経過報告会2021
Project Tsurugi(劔)は、国産の新DBエンジンを開発するプロジェクトです。PostgreSQLと互換な外部インタフェースも用意されますが、中身はまったく新規の強力なDBエンジンをめざして開発が進んでいます。そのProject Tsurugiの開発が佳境を迎えています。まだリリースまでは時間が掛かるようですし、PostgreSQLニュースというわけでもないのですが、とにかく応援したいので、番外として挙げさせてもらいました。本連載では第75回でお伝えしました。

2022年1月以降開催予定のセミナーやイベント、ユーザ会の活動

オープンソースカンファレンス 2022 Online/Osaka

日程 2022年1月29日(土)10:00~18:00
場所 オンライン開催(ZoomおよびYouTube Live)
内容 オープンソースカンファレンスは、オープンソースの「今」を伝える総合イベントとして、東京だけでなく、北は北海道、南は沖縄まで全国各地で開催しています。例年は大阪で開催されていたこの回もオンライン開催となりました。セミナープログラムは1月上旬に 公開予定です。OSSデータベース関連のセミナーについては公開されるプログラムをご参照ください。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

第30回 PostgreSQLアンカンファレンス@オンライン

日程 2022年1月25日(火)20:30~23:00
場所 オンライン開催(Zoom)
内容 PostgreSQLについて発表したりディスカッションしたりするイベントです。アンカンファレンス形式なので、何が出るかは当日のお楽しみ。
主催 PostgreSQLアンカンファレンス

新春恒例!MySQL 8.0入門セミナー パフォーマンスチューニング編2022

日程 2022年1月20日(木)午後開催予定
場所 オンライン(Zoom)
内容 新春恒例のMySQLのチューニングセミナーは2022年も開催!MySQLのチューニング時に役立つ様々な機能やチューニングの基礎知識を解説します。⁠申し込みサイト近日公開予定)
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

MySQL 8.0入門セミナー MySQL Workbench編

日程 2022年2月4日(金)午後開催予定
場所 オンライン(Zoom)
内容 MySQL Workbenchはオラクルが開発しているMySQLの公式GUIツールです。MySQL WorkbenchにはMySQLの運用管理に役立つ機能のほか、SQL開発に役立つ機能、DB設計に役立つ機能、データ移行に役立つ機能も兼ね備えています。このセッションでは、MySQL Workbenchの機能や利点をデモを通してご紹介いたします。
今回のウェビナーでご紹介する主なMySQL Workbenchの各機能(申し込みサイト近日公開予定⁠
  • ER図を用いたデータベースの設計
  • SQL文の作成や最適化
  • 性能監視と分析
  • データマイグレーション
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

オープンソースカンファレンス 2022 Online/Spring

日程 2022年3月11日(金⁠⁠~3月12日(土)10:00~18:00(2022年1月31日まで出展者募集中)
場所 オンライン開催(ZoomおよびYouTube Live)
内容 オープンソースカンファレンスがコロナ禍の影響でオンライン開催になったのが2020/Springからでしたので、この2022/Springから3巡目になります。この回は2日間に拡大して開催されます。OSSデータベース関連のセミナーも多数実施されるでしょう。1月31日までは出展申込も受け付けていますのでご検討ください。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

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