概要
マネジメントは経験でもセンスでもない,フレームワークを実行するのみ
数字の話ばかりで,仲間も自分も疲弊させてしまう。
メンバーを犠牲にして残した成果は,持続性のない,偽物ではないか?
数々の失敗から学び,小さなベンチャー企業を上場まで導いたプロフェッショナルマネージャーのノウハウを一挙公開。
こんな方におすすめ
- 急成長を指向する組織(ベンチャー/スタートアップ,新規事業)のマネージャー/経営者
著者から一言
イノベーターが生んだサービスを,マネジメントの力で急成長させる
「うちの会社のサービス,良いものなんだけど,なぜか会社が成長しない」
こんなことを思いながら,モヤモヤ仕事をされている方は多いのではないでしょうか。具体的には,こんなことを感じているのかもしれません。
「人が入ってもすぐ辞めてしまう」
「会社の雰囲気が暗い」
「みんなあまりやる気がない」
「社長や上司の悪口がメンバー間で横行している」
「会社としての方向性がよくわからない」
良いアイデア,良いサービスを持っていて,「これからさらに大きくしよう」「世界を変えよう」と意気込む会社も,このような状態では大きくなりません。
この会社には,大事な何かが欠けています。
ベンチャー創業者や社内の新規事業担当,あるいは社会起業家などが立ち上げる新しい挑戦=ベンチャーにおいて,彼(女)らイノベーターが生んだ新しいサービスを大きく育てるのは,“マネジメント”の力です。それは,新しいものを0から生む力とはまったく異なるものです。その力を発揮し,新しく生まれたサービスを大きく育てるのがマネージャーです。
ベンチャーにおいて,マネージャーは新しいサービスを急成長させるために,目標を立て,戦略を策定し,組織を作り,人の才能を最大限活用し,そのサービスが持続的に成長するような仕組みを作ります。イノベーターの仕事が「0を1に」する仕事であるとすれば,マネージャーの仕事は「1を100に」する仕事ともいえます。良いマネージャーがいるから,良いサービスは大きく育ち,やがて日本を,世界を変えます。
ベンチャーのマネージャーには,“ベンチャー特有の”マネジメントスキルが求められます。安定成長志向で事業基盤が強い組織と,急成長志向で事業基盤が弱い「ベンチャー」では,同じ「マネジメント」でも求められる能力は異なります。“ベンチャーという特殊なシチュエーションに特化したマネジメント能力”が求められるのです。
私は2009年にDeNAに入り約8年間,規模の大小,そして職種も異なる,さまざまなチームのマネジメントや経営を担当しました。そして,2017年にハウテレビジョンというベンチャー企業に取締役COO(最高執行責任者)として招聘された私は,DeNAで培ったマネージャーとしての力をフル活用し,「組織が崩壊している」状態だった同社を2年で立て直し,東証マザーズ上場に導きました。
この経験を通じて「起業家が生んだサービスを成長させる,ベンチャー特有のマネジメントの技術」について改めてその必要性を実感しました。しかし,それを体系化し世の中に提供しているコンテンツは1つもありませんでした。
「この技術は,新しいプロジェクトがどんどん生まれるこれからの時代には絶対に必要だ」
そう感じ,本書を執筆するに至りました。
ネットワーク型組織で求められるのは“イーブン”な関係のマネジメント
副業解禁,DX,SNSの発達,終身雇用の崩壊などを背景に,さまざまな人が有機的につながる組織モデルにシフトしつつあります。1つの組織の中で完結してプロジェクトをおこなう1社完結型組織から,他社,副業,フリーランスなど所属組織の枠を超えたさまざまな人とつながり協働して価値を生む「ネットワーク型組織」へと,時代はシフトしつつあります。また,新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに一気に広まった「オンラインワーク」は,今後も私たちのワークスタイルに根づいていくものと思われます。
ネットワーク型組織において,プロジェクトの参加者はさまざまなプロジェクトを手がける兼業者が多いため,オンラインワークが非常に便利です。場所に制限されず,多様な参加者を集めることができます。一方,オンラインワークが根づく世界では,すでにみなさんも感じているように,移動時間やオフィス内の周囲の目がなくなり,ネットワークに参加しやすいです。そのため,より多くの人が,兼業という形でネットワーク型組織に参加するでしょう。
ネットワーク型組織が,オンラインワークを求める。
オンラインワークが,ネットワーク型組織の参加者を増やす。
ネットワーク型組織とオンラインワークは,相互に作用・強化し合っているのです。この相互作用が,私たちを新しい働き方の時代へと急速に誘っています。
このような時代では,会社の中での地位や権力を活かしたマネジメントは通用しません。多様な立場の人と,対等=イーブンな関係でチームをまとめあげ,プロジェクトを推進する必要があります。
イーブンなマネジメントがおこなわれるチームでは,「マネージャーは地位や権力ではなく役割でしかない」という認識がメンバー間にはっきりとあり,そこには「自分の思うことを自由に発言していい」という安心感があリます。自社の社員だけではない多様な立場のメンバーが,それぞれの知見を元に,意見を活発に出し合います。そして,その意見をマネージャーが大いに活用することで,マネージャー1人では到底生めないであろう質の高い意思決定が可能になります。
また,メンバーの主体性を殺すような管理システムではなく,メンバーがそれぞれの才能を活かし躍動しながら,チームとして大事なことがスピーディに決まって進む仕組みが導入されています。そのようなチームが,答えの見えない新しいプロジェクトを急成長へと導きます。
新しいことを生み成功しているベンチャー企業では,コロナ禍よりずっと前から,「地位や権力を活かしたマネジメント」を嫌い,マネージャーとメンバーは単なる役割の違いと捉えた“イーブンな関係”で,“地位や権力ではなく技術で”マネジメントをしてきました。そして,これからの時代,新しいことに挑戦しようとするすべてのプロジェクトに求められるのは,この“イーブンな関係でマネジメントをする技術”を持ったマネージャーなのです。
個の時代を生き抜くための最強の技術をあなたに
「マネージャーなんてやりたくない」
そんなふうに言う人が増えるようになりました。
かつて1社の中に閉じこもって仕事をする時代の「マネージャー」は,その会社の中での自分の地位や権力,その先にある報酬やキャリアアップを示す「出世」の意味合いが強かったため,だれもがそれを求めたのかもしれません。しかし,ネットワーク型組織が広がるこれからの時代においては,そのような意味合いがどんどん薄れ,結果として「地位や権力を得られるわけでもないのに,自分のことではなく人のことばかりお世話して,損な役割だ」と思う人が増えたのでしょう。
しかし,イーブンなマネジメントの技術は,「個の時代」を生き抜くための非常に強い武器になります。私自身もそうですが,個人として「こんなことがしたい」と思う時,1人でやってもできることなどたかが知れています。個の時代において,みなさんは自分自身の意思ややりたいことに向き合い,それを事業やサービス,何らかの活動に変えていくことになります。そして,それを大きく育てるためには,多様な立場の人をまとめ上げる力が必要です。イーブンなマネジメントの技術は,まさにそれを実現する最強の武器として,あなたを助けることでしょう。個の時代だからこそ,個はマネージャーと化し,自分のやりたいことを思いきり表現することができるのです。
本書は,私の約10年に渡るベンチャーでのマネージャー経験や,たくさんの組織・個人への研究を通じて体系化した,「新しい挑戦を急成長させるイーブンなマネジメント技術の型」をみなさんに提供します。今の組織で成果を出すために,そしてその先にあるみなさんの自己実現が成就するために,本書が一助になればそれに勝る喜びはありません。