OSSデータベース取り取り時報

第89回MySQL & PostgreSQLの2022年の主なニュース

あけましておめでとうございます。この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。2023年もOSSデータベース取り取り時報をよろしくお願いいたします。

[MySQL]2022年12月の主な出来事

2022年11月のMySQLの製品リリースはありませんでした。

クラウド版のMySQLであるMySQL HeatWave Database Serviceでは、レプリケーション機能の強化が行われ、お客様のご要望の多かったリードレプリカが追加されました。参照処理の負荷分散用のMySQLサーバーを18台まで追加でき、ロードバランサーとして機能するエンドポイントを利用可能となっています。

またAmazon RDSなどMySQLサーバーと完全互換ではないクラウド・データベースからのレプリケーションの際は、これまでは中間サーバーにて非互換のテーブルのフィルタリングが必要でした。12月のアップデートによりフィルター機能が追加されたため簡単にこれらのサービスからレプリケーションが可能となっています。またレプリケーション元がGTIDを利用していない場合でもレプリケーションが可能となっています。

2022年MySQL重大ニュース

2022年のMySQLに関する出来事を振り返ります。MySQL 8.0の継続的な機能拡張に加えて、クラウド・データベースのMySQL HeatWaveにも数多くの機能強化が行われてきました。

1 MySQL Operator for k8sリリース
第82回でご紹介したKubernetes環境でMySQL InnoDB Clusterの構築や運用を支援するオペレーターです。クラスター全体のライフサイクルを管理し、バージョンアップやバックアップなどの手順も省力化します。MySQL Operator for k8sのリファレンスマニュアルではKubernetesの用語とInnoDB Clusterの各ノードのマッピングも行っています。
2 Generated Invisible Primary Key ⁠GIPK)追加
MySQL 8.0.30で追加になった機能です。MySQL 5.7.6で追加されたGenerated Column ⁠生成列)や8.0.0から利用可能となったInvisible Indexes(不可視列)を組み合わせたようなGenerated Invisible Primary Keyが利用可能となっています。日本語に訳すと生成不可視プライマリーキーでしょうか?長いですね。デフォルトではオフになっているため利用の際はサーバーシステム変数のsql_generate_invisible_primary_keyをONに変更する必要があります。
3 MySQL Shell for VS Codeプレビューリリース
開発者に人気のコードエディタVS CodeのMySQL向けプラグインとして開発されています。MySQL ShellのGUIとして用意され、SQL文の実行やグラフでのデータの可視化、またOCIのMySQL HeatWaveの運用支援機能などが含まれています。原稿執筆現在は1.6.0+8.0.31が最新バージョンとなっています。
4 3バイトUTF-8非推奨
MySQL 8.0.13で正式に非推奨となり、将来バージョンでの削除が予告されました。その後のバージョンでCollationやパラメタなど各所の3バイトUTF-8を表すutf8の表記がutf8mb3に変更されています。アプリケーションや運用スクリプトなどでの非互換に注意してください。
5 MySQL HeatWaveのレプリケーション機能強化
MySQLのクラウド・データベースMySQL HeatWaveにはもちろんレプリケーション機能が実装されています。2022年3月には高可用性構成をレプリカとするインバウンド・レプリケーションの機能拡張が行われました。
また多くのお客様からご要望のあったリードレプリカが12月に実装されました。また他のクラウド・サービスのMySQLベースでも完全互換ではないAWS RDSなどからもレプリケーションをシンプルな設定のみで行うためのフィルターも導入されています。
6 MySQL HeatWave AutoMLリリース
機械学習エンジンとしてのHeatWave AutoMLが追加されました。訓練や推論の実行時にデータベース内のデータを機械学習アプリケーション側に抽出する必要がないため、セキュリティやリソースの観点からメリットがあり、また機械学習の各工程が自動化されているので誰でも簡単に機械学習アプリケーションの開発が可能です。MySQL HeatWaveの利用者は無料で利用可能な機能です。ちなみにリリース時には名称がHeatWave MLとされていましたが2022年12月に静かにHeatWave AutoMLに改称されています。
7 MySQL HeatWave on AWSリリース
オラクルのマルチクラウド戦略の一環として、MySQL HeatWaveがAWS上でも動作するようになりました。アプリケーションやシステムをAWS上で構築しているお客様が他のクラウドにアクセスせずにMySQL HeatWaveが利用可能になっています。AWSからのエグレスのコストが不要で、かつネットワークのレイテンシーなどを心配する必要も無く、MySQL HeatWaveの高い性能を活用できます。
8 MySQL HeatWave on Azureリリース
同じくマルチクラウド戦略の一つとして、AzureからOCI上のクラウド・データベースを活用できるOracle Database Service for Azureの対象のデータベースとしてMySQL HeatWaveが追加されました。専用コンソールからMySQL HeatWaveの起動や管理が可能で、Azure上のアプリケーションからは高速なFastConnect経由でMySQL HeatWaveが利用可能です。
9 MySQL HeatWave Lakehouse発表
オブジェクト・ストレージ上に置かれたCSVやParquet、AuroraおよびRedshiftのバックアップなど、各種ファイルのデータを高速にロードし、MySQLサーバのSQL文でデータ分析が行えるように設計されています。数百TB級のデータ分析も迅速に行えるソリューションとなっています。なお、MySQL HeatWave Lakehouseは2022年12月末現在ではベータ版として提供されています。
10 久しぶりの物理イベント開催
徐々にオンラインでのウェビナーだけではなく、物理的な会場で開催されるイベントが増えてきました。MySQLの場合も10月に米国ラスベガスで開催されたOracle CloudWorldのなかでMySQLの基調講演や事例講演なども行われました。
国内でも11月25日にはOracle CloudWorldの発表内容の日本向けに紹介するイベント、12月2日にはFacebookでのMySQL 5.6から8.0へのバージョンアップについてFacebookの松信さんによる講演も、日本オラクルのセミナーで開催されました。2023年にはさらにイベントが開催できる状況になることを願っています。

MySQL HeatWaveは上記以外にもさまざまな改良が続いています。

Auto Thread Poolによる性能改善効果(MySQLのセミナー資料より抜粋)
Auto Thread Poolによる性能改善効果

2023年も改良のペースをさらに上げて、お客様からのご要望が多い機能やこれまでのMySQLにはなかった新しい発想の機能の追加などが予定されていますのでぜひご注目ください。

[PostgreSQL]2022年12月の主な出来事

2022年12月はPostgreSQL本体のリリースはありませんでした。これまでにお伝えしたニュースのアップデート情報をお知らせして、独断で選んだPostgreSQL関連の2022年重大ニュースをまとめてみました。

pg_ivm 1.4 リリース

12月20日、SRA OSS LLCを中心としたIVM開発グループからpg_ivmの新バージョン1.4がリリースされました。pg_ivmは後述の重大ニュースでも先頭で取り上げている注目の新機能です。

PostgreSQL Conference Japan 2022の講演資料や写真が公開

11月11日に開催されてこの連載の前回にレポートしたPostgreSQL Conference Japan 2022ですが、多くの講演資料が公開になっています。Webサイトのプログラム欄にリンクが張られています。チュートリアルトラックの資料も公開されていますので役に立つのではないでしょうか。また、当日に会場で撮影された写真も公開になりました。参加できなかった方は、雰囲気だけでも感じてください。懇親会の写真もあります。

2022年PostgreSQL重大ニュース

日本国内からの開発貢献やコミュニティ活動をいくつか取り上げています。また、最近数年来の傾向ですが、エンタープライズ利用とクラウドサービスが2022年も目立っていたと感じます。最後に雑談に使えるおまけ情報を番外に加えました。

1 国内コミュニティ発 pg_ivm リリース
日本からのPostgreSQLの開発コミュニティへの貢献を最初の重大ニュースとして挙げました。pg_ivmは、マテリアライズドビューを高速に更新するためのPostgreSQL拡張モジュールです。日本のPostgreSQL技術者が中心となって開発、リリースされました第82回第88回⁠。拡張機能としてのリリースの次は、2023年の次期バージョンの本体にIVM(Incremental View Maintenance)機能が取り込まれることを期待しましょう。
PGEConsの成果報告会でのpg_ivmの紹介
PGEConsの成果報告会でのpg_ivmの紹介
2 PostgreSQL 15 リリースとその関連情報
新しいメジャーバージョンが無事にリリースされました。この連載でも6月のベータ版登場から毎回お知らせしてきました。
  • 次期メジャーバージョン PostgreSQL 15のベータ版が登場第82回
  • PostgreSQL 15をベータ版から予習しよう / PostgreSQL 15 ベータ2 情報 /ほか第84回
  • 次期メジャーバージョンPostgreSQL 15 のベータ3が登場第85回
  • PostgreSQL 15のベータ4がリリース第86回
  • PostgreSQL 15 が正式リリース第87回
  • PostgreSQL 15.1第88回
3 PostgreSQLのマネージドサービスに関連した発表が目白押し
この連載では個別の新サービス発表についてはあまり取り上げてきませんでしたが、年間を通して眺めてみると、多くのクラウド事業者やITベンダがサービスを次々と充実させていることがわかります。これは昨今の継続的な傾向ですが、代表的なクラウドベンダがそろい踏みとなり、一層拍車が掛かっているように感じられます。そこで、代表的なものをまとめて重大ニュースとして挙げました。
4 コロナ禍でも元気な国内コミュニティ活動 ①日本PostgreSQLユーザ会
PostgreSQL Conference Japan 2022は、日本PostgreSQLユーザ会(JPUG)が主催する毎年恒例のイベントですが、なんと3年連続でオンサイト(会場)での開催が実現しています。第64回で2020年、第76回で2021年、第88回で2022年の開催をお知らせしました。2022年はついに懇親会も開催できました。やっぱり懇親会あってのコミュニティ活動ですよね。他のコミュニティもこれに続いて平常に戻れることを期待します。なお、2021年の重大ニュースで注目株として挙げたProject Tsrugiの進捗状況が2022年のこのイベントでも発表されました。Project Tsurugiは2023年にいよいよ成果の公開を控えているので次回の重要ニュースに入ってくることと思います。
入場証としてのマスクの歴代全バージョン
入場証としてのマスクの歴代全バージョン
5 コロナ禍でも元気な国内コミュニティ活動 ②PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム
PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons)もコロナ禍に負けずに引き続き頑張ってます。2月にはオンラインイベント「データベースシステムがこれまで以上に時代の先端を拓く時代に突入」を開催第79回⁠。5月には部会・WG活動の成果報告会が開催されました第82回⁠。なお、後述のイベント・セミナーコーナーでお知らせしますが、次のイベントが2023年2月開催で準備中です。
6 解説書が出版:『⁠⁠改訂3版]内部構造から学ぶPostgreSQL』
定番のPostgreSQL解説書の改訂版が出版されました。なんでもインターネットで検索できてしまう時代ですが、腰を据えて技術を身につけるためには系統的に解説された書籍の役割は変わらないと思います。著者のみなさんは国内のコミュニティ(PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアムなど)でも活躍されている方たちで安心感があります。
7 エンタープライズIT向けPostgreSQLの人気が赤丸上昇中(たぶん)
PostgreSQLはエンタープライズITシステムのDBサーバとしてスタンダードなものになってきました。それに伴いサポートサービスや付加機能が付いたPostgreSQL製品の人気も高まってきていると感じます。この連載ではその代表格のEDB Postgres関連のお知らせを取り上げてきました。
  • Postgres Build 2021セッションのハイライト第78回
  • Postgres Vision 2022がオンラインで開催第83回
  • EDB Postgres Vision Tokyo 2022第86回
  • 「EDBはPostgreSQL開発コミュニティと共に進化する⁠⁠~EDB CEO Ed Boyajianさんとの対談第87回
番外 名古屋・東山動植物園で象の赤ちゃんが誕生
PostgreSQLのマスコットがSlonikという象なので、それにちなんで象のニュースを番外として。2020年の重大ニュースの番外でも上野動物園での子象「アルン」誕生のお知らせをしました。2021年は見つけることができなかったのですが、2022年は嬉しいニュースを見つけることができました。この象の赤ちゃんは、10月に「うらら」と命名されました

2023年1月以降開催予定のセミナーやイベント、ユーザ会の活動

新春恒例「MySQL 8.0 入門 チューニング基礎編、SQLチューニング編 2023」

日程 2023年1月12日(木)14:00~17:00 ⁠予定)
場所 オンライン(Zoom)
内容 毎年ご好評をいただいている新春恒例のMySQLパフォーマンス・チューニングセミナー。この1年で追加や変更になった機能も反映しさらにブラッシュアップ。MySQLのチューニング時に役立つさまざまな機能やチューニングの基礎知識を解説します。講師はMySQLのパフォーマンスチューニングに関する執筆も行った日本オラクルの稲垣大助が担当予定。MySQLをチューニングする時に役立つさまざまな機能やチューニングの基礎知識を解説します。
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

OSS-DB Exam Silver 技術解説セミナー

日程 2023年1月21日(土)13:00~14:15
2023年2月5日(日)13:00~14:15
場所 オンライン開催(Zoomウェビナー)
内容 OSS-DB Exam Silverの出題範囲からの解説を行うセミナーです。1月21日の回では運用管理から「基本的な運用管理作業」について解説します。2月5日の回では、PostgreSQLならびにリレーショナルデータベースに関する一般知識と、OSS-DB Silverにおける「一般知識」の範囲について確認をします。
主催 特定非営利活動法人LPI-Japan

第38回 PostgreSQLアンカンファレンス@オンライン

日程 2023年1月27日(金)20:30~23:00
場所 オンライン開催
内容
  • 初心者による「使ってみた/動かしてみた」
  • 中級者による「こういうノウハウ使ってる」
  • 上級者(?)による「こういう拡張してみた」
その他、PostgreSQLに関連する話題であれば何でもOK!アンカンファレンス形式なので、何が出るかは当日参加してのお楽しみ。
主催 PostgreSQLアンカンファレンス

オープンソースカンファレンス 2023 Online

日程 〔Online Osaka〕2023年1月28日(土)10:00~18:00
〔Online Spring〕2023年3月10日(金⁠⁠・11日(土)10:00~18:00
場所 オンライン開催(ZoomおよびYouTube Live)
内容 オープンソースカンファレンスは、オープンソースの「今」を伝える総合イベントとして、東京だけでなく、北は北海道、南は沖縄まで全国各地で開催しています。2020年の春以降はオンラインでの開催となっています。今後の開催予定は2023年1月のOnline/Osakaと、3月のOnline/Spring(全国大会の位置づけ⁠⁠ です。3月のOnline/Springでは、私たちOSSコンソーシアムもセミナーを実施する予定です。データベース部会も参加します。オープンソースカンファレンスは、4月以降に3年ぶりの会場での開催も検討中とのことです。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

第28回PGEConsセミナー(ユーザ事例など)

日程 2023年2月10日(金)13:00~17:00(予定)
場所 オンライン開催(Zoomウェビナー)
内容 PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons)が開催する恒例のセミナーイベントです。今回は招待講演とユーザ事例の発表を予定しています。1月前半にはプログラム詳細と参加募集を開始予定です。詳細はPGEConsのWebサイトに発表される情報にご注意ください。
主催 PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム

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