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何が起こるかわからないものを使う……ブラックボックス化の問題は大きい

――IT業界の現在の流れに対して,何か気になるところはありますか?

柳原:むだを許さないような雰囲気がまん延していることでしょうか。

森:それはありますね。

柳原:昔ネットワークが始まったころにしたって,パソコンとかウインドウズとかが始まったころにしたって,今から考えたら僕自身すごくむだな時間も使ったし,むだな経験もしたし,部下にむだなこともやらせました。でも,その中から一応ベストソリューションが生まれてきて,それを組み合わせた段階である程度の環境が出来上るのです。そんなことをこの10年間ぐらいやってきましたが,それなりに結果が残せたのは,むだなことをやったおかげでしょう。一方,そういうことをやっていない部署があって,むだなことは何もせず,メーカーさんと話して某社のシステムをポンポン入れた。その結果,批判が続出となったわけです。

――なるほど。

柳原:むだな経験をしていると,批判にさらされても「それが足りないのだったら,ちょっとこれを足しましょう」というように結構対処できる。だから,システムとして柔軟性が持てることになるのです。そういうむだな経験とか,むだな時間というのを一切認めずに「とにかく早く結果を出せ」という雰囲気がまん延してくると,たぶんこの業界はだめになっちゃうのかなと思う。

森:むだというのは自分で考えるという作業を伴うわけですから,それを排除する風潮は怖いですね。⁠自分で工夫しよう」⁠自分で何とかしよう」はなくなってしまい,⁠それはだれかが考えるよ」になってしまう。

――森さんが言われた「作るところには興味がない,結果だけ欲しい」ということにつながりますね。

森:そうです。大手コンピュータメーカーがよく「水道の蛇口をひねれば水が出るように,ITのリソースが簡単に利用できる」と理想を言うじゃないですか。確かに1つの理想でしょうけど,その水道の仕組みに興味を持たなくていいのかって考えてしまいます。すごい金と労力がかかるわけですよ,浄水場を作るわ,水道管を作るわ,塩素が混じらないようにするわ。でも,その仕組みをユーザーが全然知らなければ,ブラックボックスになってしまいます。水道はともかく,ITの場合はブラックボックス化は問題です。

――西暦2000年問題なんか,そのブラックボックス化も一つの要因として考えられそうですね。

森:そうです。何が起こるかわからないものを使っているわけですよ,結局。だれがどういう思想で,どんなふうに作ったのかわからないものを,疑問も持たずに自分で考えないで百パーセントそのまま受け入れちゃう。これは,まずいですね。やっぱり,どこかで自分で考えてほしい。

柳原:インフラなんか特にそうだけど,動いていてあたりまえ,金を払ったらそのサービスを受けられるというのは世間に山のようにあります。でも,そういうものは意外にやばい。例えば,航空機。金を払ったらだれでも乗れる,どうやって安全に飛んでいるかなんて知ったこっちゃない。たぶん,テロなんてのは,そういうところの間隙を突いてくるんでしょう。結局,ITも同じことだと思います。ブラックボックス化して「何か知らないけど動くものなんでしょう」という人たちは,ウイルスにバタバタやられている(笑)

森:ブラックボックス化したときに,人間の感性って麻痺しますね。水道なんかもそうですが,われわれの知らないところ,つまりブラックボックスの部分で奮闘努力している人も存在するわけです。だれかが何かやってくれているからというのを忘れて,与えられるのがあたりまえだと思い始めたら,人間って堕落すると思うのです。もちろん,そういった道徳的な意味だけではありません。下手すると,ブラックボックスのおかげで,つけ込まれてしまいます。ベンダーのほうは,そういう判断能力がない人に売るのは簡単ですから,いくららでもいいかげんなものを作れてしまう。

――そろそろ時間なので,最後に一言お願いします。

柳原:ブラックボックスの問題への対処にもなりますが,とにかく自分で使って,自分で経験して,それで自分なりの判断をしようよということが重要ですね。テクノロジーが社会で有効になるためには。その積み重ねが必要なのです。そのためには,むだを認めなければならない。なんでもかんでもお金に換算して考えようとか,開発効率を上げようとか,そういう評価のスタイルばかりに固執してはならないでしょう。

森:人に与えられたものじゃなくて,あるいは仕様とかキャッチフレーズとか価値だ,効率だとかという言葉じゃなくて,とにかく自分で判断する力を身につけていってほしい。そして,作り手側もマーケットに媚びないでほしいですね。

(初出:Windows Server World 2004年)


「システム管理者の皆さんへ」(柳原秀基)

正確な統計はないのだが,システム管理という仕事に付く人は,この10年ほどの間に急増したと思う。役職としてその名前が付いていなくても,企業などの組織の中で,そういう役目を果たす人は増えているはずだ。

友人などの話を聞いていると,従業員数が100人を超えるようなところでは,情報システム部として2人以上が配置されているようだ。それよりも小さい企業では,会計や給与関係のシステムに出来合いのパッケージソフトウェアを使っているのがほとんどなので,SIベンダーに丸投げしているのが一般的である。

そうしたところでよくあるのは,総務・庶務の中でパソコンの得意な社員を見つけて担当させるパターンだ。もちろん本業との兼務であり,片手間仕事である。社内で使われるパソコンの手配,ソフトウェアのインストール,ネットワークの設定,LANの配線,果ては自社Webコンテンツの作成まで担当していることもある。要するに,なんでも屋だ。

おまけに彼・彼女をきちんと指導してくれる人はいない。よほどの物好きでなければ,彼らの仕事を手伝おうという人もいない。もちろんシステム管理者としての権限が与えられているわけでもないので,社員や上司から文句を言われれば,それに逆らうこともできない。

最大の問題は相談できる同僚がいないことだろう。問題が起こった時に,どのような考え方で,どのような対策を採用するかについて,一人で悩むことになる。対策のための技術に手も足も出ない状態になると,自らの不勉強を呪うことになる。システムの更新や新規導入に際して,どのような手順と注意点があるのかも,誰も教えてくれない。

そこで,途方に暮れて,書店に足を運ぶことになる。書店にはSE(システムエンジニア)を対象とした書籍がたくさん並んでいる。そのほとんどは,情報システムを作り,売る側のSEを対象とした内容だ。どのようにしてユーザ(発注側)が求める要件をもれなく聞きだして分析すればよいか。同時にそのとおりに設計してしまうのではなく,ユーザ側が本来必要としているものを考える事が大切だと力説されている。こうした書籍のおかげで,情報システムを設計し,作るという仕事がどんなもので何が求められるのかということは,一般的に知られるようになったと思う。おかげで,SEとはどのような職業で,彼らとどう接するべきかについての知恵はつくようになった。

ところが,ユーザ側の窓口としてSEと接する機会の多いシステム管理者について,その行動指針や生態を明らかにした書籍はまだまだ少ないのが実態だ。そのせいかもしれないが「システム管理者」という言葉は,まだまだ社会一般に受け入れられたとは思えない。2000年に本シリーズの1冊目(通称,管眠本の青本)が出版されたとき,大手書店のコンピュータ関係の棚をいくら探しても見つからず,見つかった場所は「経営・ビジネス書」のコーナーだったこともある。⁠管理者」という文字から,そう分類されてしまったのだろう。当時は大手の書店でも,その程度の認識だったのだ。そう考えると,本の帯に書かれている「システム管理者という職業を世に知らしめた」という文言には少し無理がある。知らしめたにはほど遠いと思っているのが筆者の本音である。

『システム管理者の眠れない夜』は,企業や組織の中で,なんでも屋に陥りがちなシステム管理者が,どのようにして本来のシステム管理者の仕事を確立していったか,という実話だ。そしてここには,参考書のように理路整然とした話や教訓は書かれていない。あくまでも筆者が現場で遭遇した問題に,筆者がどう悩み,考えて行動してきたかが綴られている。もし,システム管理という仕事を任されて悩んでいる人がいたら,ぜひ本書をお勧めしたいと思う。そして,自らの体験と重ね合わせたうえで,明日からの仕事の糧にしていただければ幸いである。

10年以上,⁠システム管理者の眠れない夜』を書き続けてきたおかげで,僕はいろんな組織の,いろんな立場のシステム管理者と知り合うことができた。運用しているシステム規模も,その複雑さも,そしてそのシステムを利用するユーザ層もさまざまだが,そんな人々の「システム管理魂」に触れることができた。そこで生まれたパッションによって,僕は10年以上の連載を続けることができたのだと思う。そんなシステム管理者たちに,ここで感謝の意を表したい。

みんな,ありがとう! そしてこれからもよろしく!

「システムインテグレータの皆さんへ」(森正久)

で,なんですか。来春卒業予定の大学生の就職内定率が,史上最低の57.6%ですか。⁠文部科学,厚生労働両省による調査結果)こんな言い知れぬ不安な時代のど真ん中にいらっしゃる方々にとって,チャラケた筆者が何か言おうものなら,それこそテロにあっても「自業自得」って世論に刺されちまいますよ。剣呑剣呑。

そんな世情なのに,⁠システムインテグレータのエンジニアの皆さんへ一言」というコラムを書くことになった。う~ん,困った。基本,⁠暗黒のシステムインテグレーション」は娯楽本ですから。娯楽本の与太作者にそんなこと語らせるのは,政治家が海保による情報漏えいを吊るし上げるかのごとく,どっかズレてる……って,違うか。そうじゃなくて,AKB48にガラケーの将来ビジネス戦略を語らせるかのごとく無理難題……って,これは逆にナイス・アイディアじゃん?

ま,とにもかくにもでい,他人様と同じと見られるのが何よりでぇっきれぃ,外れっぱなしの逆張り人生まっさかさま。さりとてアウトローを気取るほどの冴えもどしょっ骨もないオイラの話を,ヨタのついでにチョイと聞いとくんな。

エンジニアとは,論理の落とし子。論理に照らして,今までの手順に手法,ビジネスの組み方やり方,常識定石常套なんてヤボ天は,まずは疑ってみるこった。そして,オカシイ,フニオチナイ,モシカシタラと感じたら,感じるだけじゃなくてどうしてそうなのか,こってり自分なりにぢぃーっと考える。⁠あーでこーで,昔はいとおかし」なんて大正浪漫にひたってる場合じゃねーぞ。考えてるだけじゃぁラチあかねーから,自ら動いて,周りがオモシロ楽しくて引きずり込まれちまう土俵を作っちまえ。そして,部署や会社なんていうシミったれた垣根なんてのはもちろん,国境(クニザカイ)も越えて仲間を集っちゃれ。

決して忘れちゃならねーのが,渡世の仁義。ひとさまをナメる,ハメる,裏切る,後ろから刺す,ってのは,今も昔も変わらぬご法度。そして,その手の輩が仕掛けたピットホールにはまらないために,内規に派閥に組織力学,なんちゃらマネージメントにコンプライアンス,カネ勘定から世間の目に至るまで,くだらねぇいやい,なんて言ってないで,覚えとくんだよ,八っつあぁん。いざって時に約に立つからね。

それでも,論理とシガラミの相克に悩んでる? そんな時にゃ,オイラはネットを離れ,近くのしょぼくれた日帰り温泉で汗ながし,ねっころがって本でも読むってなもんさね。⁠IT Doesn't Matter』で,IT業界の痛いところを突いたニコラス・G・カー氏も,著書『ネット・バカ』⁠青土社刊,原題 The Shallows:What the Internet Is Doing to Our Brains)で,⁠ネット社会は脳に変化をもたらし,判断は迅速だが深い思考が苦手な脳にする」ってなことを書いてるし。やっぱ,論理的な思考力あってのエンジニアってもんよ。ということで「皆さん,本を読みましょう」って,結局宣伝かよ!

お後がよろしいようで。テケテンテンテン