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世の中には,本のあとがきから読みはじめるという方もおられます。実は私もその一人です。あとがきから読むのは,この本で言いたかったことを先に知りたいということがあるからだと思います。
デジタルゲームAIの特徴は何よりも「ゲームというコンテンツ」とともにある,ということです。それぞれのゲームの求める声を聞き,それに応えることで,ゲームAIは発展し多様化します。そして,その技術はゲームの中で活かされることになります。
しかし,ゲームデザインがあって技術があるというほど,デザインと技術の関係は単純ではありません。「ゲームデザインのためにAI技術がある」とか「ゲームAI技術の上にゲームデザインがある」とか,端的にそういう表現を使うことはありますが,「お互いがお互いの中に生きている」という複雑な関係にあります。ゲームAI技術者もゲームデザイナーもお互い遠慮していたのでは,良いものはできません。お互いの間で線引きを始めるよりも前に,技術からゲームデザインを,ゲームデザインから技術を提示してこそ,お互いに協調する可能性を見いだせます。ゲームとはデザインと技術とアートの結晶なのですから。
技術から最も遠いものと技術が結び付くときに,ゲーム特有の駆動が生まれます。技術とデザインのせめぎ合う融合がお互いを引き上げます。ゲームの要求に応じて,デジタルゲームAIはコンテンツデザインと融合してきたからこそ,この20年で急速な進化を遂げてきたのです。そして,そこに新しいゲーム体験が生まれるのです。
本書で示してきた例は,既存のゲームで成功した,ゲームデザインとデジタルゲームAI技術が融合した事例です。ただ,私がエンジニア寄りということもあり,ゲームデザインからの要求の記述がやや薄かったと思います。ぜひゲームでもほかの分野でも,自分の想像したビジョンやデザインと人工知能技術を結び付けることで,多くの人を楽しませ,役立たせてください。
本書を書きはじめたのは2012年のことでした。最初から最後まで,技術評論社の池田大樹さんに導いていただきました。この場を借りて感謝申し上げます。
美味しい料理で執筆を支えてくれる妻に感謝します。
最後に,ここまで読んでくださった読者の皆様,これから読むという読者の皆様に,深く感謝申し上げます。
2019年9月 三宅陽一郎 @miyayou